先日、「槐多朗読」を開催したカフェの上にあるホール、キッド・アイラック・ホール( @KID_HallGallery )でバリトンサックスのソロ公演があるというので、興味を引かれて行ってみました。
なんかよくわかんないけど、とんでもないものを聴いたような気がするので、とりあえず書きとめておきます。きっと今夜の音を私なりに消化するには、しばらく時間がかかるような気がする。
バリトンサックスというのは普通はアンサンブル楽器で、単独で演奏されることは滅多にありません。そこに興味を引かれたのです。演奏者のUKAJIさんという方は面識もありませんし、お名前も初めてうかがった方です。
行ってみたら、なんとこの公演は今日が154回めだというではありませんか。1970年代からずっとひとりでやっておられるそうです。演奏者はUKAJIという方。立派なおじさんです。私より少し上かな。
キッド・アイラック・ホールの素っ気ない空間に、演奏者用の椅子とテーブルと譜面台と、バリトンサックスがゴロンと転がっています。客席は折り畳み椅子が8脚くらい。つまり、このくらいのお客さんしか来ない、ということなのでしょう。
7時半すぎに演奏が始まりました。
ベレー帽をかぶったUKAJIさんが椅子に座って、椅子や譜面台やテーブルの位置を微調整。楽器を取って、さらに微調整。それからおもむろに、
「本日は寒いなかお越しいただきありがとうございます。始めます」
といって、吹きはじめました。
最初は倍音を含んだ奇妙なロングトーンが何度か続いて、いったいなんの曲だろうと思っていたら、バッハの無伴奏チェロソナタが始まったのでした。が、私が一度も聴いたことのないような解釈。リズムを崩し、フレーズの途中で平気で(たぶんわざとですが)ブレスを入れ、ロングトーンでは倍音やらトレモロを入れ、それは即興でしょう。
バッハの曲というより、現代音楽、もしくはフリージャズの演奏のようです。
びっくりしました。
たしかにこんな演奏は、一般のお客さんには受け入れられないかもしれません。集客は難しいことでしょう。が、そこにはまぎれもなく、ほかのだれでもないUKAJIという演奏者の存在が確固として示されているパフォーマンスが存在していました。あまりにかっこよくて、しびれました。しびれて思考停止状態に陥ってしまったほどです。
次回はいつなんだろう。
今日はひとりで行ったんですが、次は絶対に知人を誘って行きたいと思いました。
スポットライトがひとつ落ちているだけの薄暗い空間に身を置いて音を聴いていると、かつて豪徳寺の酒屋の地下のスタジオで「Into You Mind」というソロライブのシリーズを私もやっていたことを思い出しました。あのときもお客さんがほとんど入らなくて苦労して、1年くらいやってやめてしまったんですが、あの経験が私にとってなにものにも代えられない貴重な経験であったことを、あらためて知らされたような気がしました。
UKAJIさんがこのようなライブを154回にも渡って継続してこられたことに対して、心から敬意を表します。