2013年1月18日金曜日

映画「父をめぐる旅」

東京都写真美術館まで映画「父をめぐる旅」を観に行ってきた。異才といわれた日本画家、中村正義の生涯を、実の娘の倫子が追うというドキュメンタリー映画だ。
キャッチ・コピーに「父・正義、あまりに過激。」とあったので、さぞや型破りで破天荒な人物像を想像していたのだが、実際には違った。

中村正義は異才というより、正統な日本画の緻密な才能を持った画家で、日本画という手法をもちいてどんなことでもできる天才といっていい。
ピカソのような抽象的な色面で構成したものも描くし、伝統的な花鳥風月的な日本画も描く。
浮世絵的なデザイン画のようなものも描くし、暗黒の内面をえぐりだすような人物画も描く。

52歳という若さで亡くなったが、長生きしていればどんな作品を残しただろうかという興味がわく。
日展という権威に戦いをいどみつづけ、そのために本来の画業がおろそかになるほど反権力にエネルギーを使った。
ある意味、現代の社会システムに反抗しつづけた人ともいえ、その点で強い共感をおぼえる。

晩年に近く、日展の本拠地である銀座三越で個展をひらいたとき、意表をつく美しい、静謐な風景画のみを出品した彼の心境は、どのようなものだったのだろうか。
スクリーンを通して見る風景画だったが、涙が出るほど胸を打たれるものだった。


制作クレジットに私の知り合いの名前をいくつか見つけることができた。
日本映画学校(いまは大学)関係のスタッフが中心に作られた、プロフェッショナルな匂いがただよう、非常にかっちりした作りの映画である。
ナレーションを担当しているのは岩崎聡子。