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即興演奏はでたらめに楽器を弾くことではない。
即興演奏家が演奏をおこなうとき、必ずなにかを手がかりにする。
別項でくわしく述べるが風景、オーディエンスの様子、物音、照明の変化、自分自身の心のありよう、浮かんできたイメージ、ストーリー、いろいろなものを手がかりにし、きっかけをつかんで演奏行為に置きかえていく。
ちなみに、即興演奏というとジャズを思う浮かべる人が多いだろうが、ここではジャズという即興演奏方法に限定していない。
ジャズはある特定の規則にのっとって即興演奏がおこなわれていて、そのことがまさにその音楽を「ジャズっぽい」というものにならしめているのだ。
一見自由に見えるジャズの即興も、実はかなりの制約にしばられていることが多い。
ジャズの演奏家に「自由に即興してみて。ジャズっぽくならないように」と要求すると、ほとんどなにもできなくなってしまう人が実は多い。
彼らはジャズという方法にのっとった即興演奏を身につけている。
ジャズの即興演奏法については別項で触れる予定だ。
私の場合、朗読者と共演することが多いので、朗読者が発する言葉、その言葉のイメージ、もうすこしまとまったかたまりである文章やシーンのイメージ、あるいは逆にもっと断片的な言葉に含まれる音感やリズムといったものをきっかけにすることが多い。
そういったものにセンシティブになれるかどうかが即興演奏家の良否を決定するのは間違いないが、いまここで論じているのはその話ではない。
なんでもいいが、とにかく手がかりをつかんで、実際に音を出していくとき、演奏者は数限りない選択肢を瞬間的な判断で選びとりながら、時間軸のなかを進んでいくことになる。
選択肢とは、たとえばこうだ。
「調性的なのか非調性的なのか」
「和声的なのか非和声的なのか」
「定型的なのか不定形的なのか」
その他、無数にある。
これらを体系的に整理することが、即興演奏法を理解するためのスタートラインになるだろうと思われる。
順番に見ていこう。
○調性的なのか非調性的なのか
音楽には調性音楽と非調性音楽がある。
調性的に演奏することを選択した場合、さらに次の選択肢は当然のことだが、
○○何調なのか(長調なのか短調なのか)
ということになる。
あとで述べるが、( )内の選択肢は、ある場合は意味を持ち、ある場合は意味を持たない。
長調と短調の区別が意味を持つ調性音楽もあるし、意味を持たない調性音楽もあるからだ。
意味を持つのは、音が和声的であるときである。
意味を持たないのは、非和声的であるときである。
当然ながら、次の選択肢がここに立ちあらわれてくるわけだが、その前に「調」の問題を少し掘り下げておきたい。