2012年1月3日火曜日

国や制度や社会を嘆くのはもうやめよう

消費増税の決定、社会福祉基盤の弱体化、格差の拡大、原発事故、教育や文化への国家予算削減など、国の制度や社会基盤について将来のことを思うと暗くなるばかりです。
 私も現代朗読協会の活動を通して、たとえば助成金申請などの局面でさまざまな制度の理不尽を経験しています。また、お母さんたちの話から教育現場に対する危機感も感じます。東京と北陸の実家を行き来していると、地方格差を痛烈に感じますし、東京でも格差社会の拡大を肌で感じます。安定的高給を受けている大企業や公務員と、中小企業や派遣・パート・アルバイト、自営業者との収入格差は驚くほど開いてますし、そのことについて社会はなんの対策もしていないばかりか、資本主義というシステムが格差の拡大をさらに押し進めています。
 国も社会も、だれもが笑顔で希望を持って暮らせるはずの自由競争が、そのシステムのどん詰まりに来ているように思います。
 ここで私たちが声高に「なんとかしてくれ」「きれいな日本を返せ」と叫んでも、それはだれに届くというのでしょう。この声を受け止める政治家も役人も存在しません。
 それならいっそ発想を変え、私たちの生き方を変えるしかありません。つまり、国家や社会システムに頼るのはもうやめて、自分たちでなんとかしようと努力するのです。てんで勝手に私たち自身があたらしい道すじを作ればいいのです。

 国家という枠から自由になり、自分の手元を見つめ直して生きていく方策を作ることはできるでしょうか。
 私たちがなにも考えずにそこに身を置いてしまっている枠組みから、まずは身をはがしてみる。国家、企業、流通、資本主義と消費社会、エネルギー、教育。これらから自由になり、かわりに自分たちでやれることをやっていく。可能でしょうか。
 生産者になることがもっともこの近道かもしれません。農業をはじめとする生産者は、これまで大きな枠組みに入ることで生産流通の保証を受けてきました(受けていると信じてきた)。たとえば農業だったら、農業協同組合に入ることで米などを買いあげてもらう保証を受ける。そのかわり、生産方式を指定され、農業機械をローンで買わされ(ローンは農協で組む)、種を買い、飼料や農薬を買い、農地改革に応じ、海外ツアーに出かける。その結果が現在の農村の疲弊であり、高齢化です。若い人はいまの農業にまったく魅力を感じることができません。だれも農業をやりたくないという現状があります。
 この枠をはずす。つまり農協から離脱する。自分たちの農業をやり、自分たちで流通を作り、自分たちで売る。現にそうしはじめている生産者がいます。社会全体が変わらないせいで彼らはまだまだ苦しい生活をしいられていますが、それでも成功しはじめている人たちがいます。
 あるいは地域の農協が全国農協ネットワークから離脱してもいいかもしれません。農業が本来あるべき地域に密着した、地域コミュニティとネットワークした仕組みを作りなおせないでしょうか。

 生産者だけでなく、文化の担い手も同様です。
 表現活動をおこなっている人たちのことを、ちょっと乱暴ですが、ここでは「アーティスト」と総称しておきます。アーティストたちは、コンテンツを作ったり、ひと前でパフォーマンスすることをお金に換えたりして生活しています。しかしここに来て、コンテンツはまったく売れなくなりました。パフォーマンスも同様で、巨大なホールに人を入れるような興行をおこなえるのはごく一部のアーティストだけです。かなりの有名アーティストでも、100人、200人規模のライブハウスですら満席にするのは難しくなっています。
 ならばそういうマスシステムから離脱すればいいのです。
 ひとりのアーティストが生活するのに何人の支援者が必要でしょうか。彼がCDを出すたびに買ってくれ、ライブにはできるだけ来てくれる人。また彼に表現を習いたいと思ったり、彼がなにか活動をするとき寄付をしてくれるような人。
 おそらく百人規模のサポーターがいれば、ひとりのアーティストは生活していけるのだと思います。もっとも、そのアーティストが自分のサポーターと積極的にコミュニケーションを持ち、社会活動に関わっていることが必要ですが。
 このアーティストは教育に関わることもできます。教育はまちがいなく社会が必要としていることで、次世代のアーティストを育てるためにも、あるいはアーティストではなくても感受性や思想を育てるためにも必要なことです。お仕着せの学校教育に絶望している人はたくさんいます。アーティストが自分で学校を作ってしまえばいいのです。私塾でもいいです。 アーティストは自分の技能と感性と思想を次世代へと伝えていく積極的な姿勢を持たねばなりません。

 以上はかなり大雑把で雑然とした提案ですが、私たちが国家や既存の社会システムに頼らず自分の手であたらしい暮らしのコミュニティを作っていく方向性はこういったものだと確信しています。
 このことについては、いずれ近いうちに、緻密に考証しながらしっかりと文章にまとめてみたいと思っています。皆さんにもお知恵を拝借できれば幸いです。