「軸足のブレない人」という言葉は、ふつう、ほめ言葉として使われます。
主義主張、態度、生活様式、仕事、思想、そういったものが不変で一貫している人を一般的に「すばらしい」という雰囲気があるような気がします。
気がする、というのは、私はそのような風潮のなかで常に苦しんできた者だからです。
私は首尾一貫していたことがありません。時間とともに考え方も、自分のありようも、人に接する姿勢も、常に変化しつづけて、いまここにいます。去年の私といまの私とはまったく違う人間のように思います。去年考えていたことと、いま考えていることとでは、大きなへだたりがあります。自分に正直にあろうとした結果が、このようなことになっている気がします。
だから、「おまえ、O型だよね」「牡牛座っぽいな」「雪国育ちだからな」「小説家はね」といったレッテル貼りにさらされて、抵抗をつづける日々だったといっていいでしょう。
福岡伸一の『動的平衡』という本が好きです。人は外見はそう変わりないように見えても、その内側は劇的に流動的で、たえず変化しつづけているのだ、という生物学者の立場から見た哲学です。
私は軸足をぶれ続けさせて、量子力学のような人生を楽しみたいと思っています。