ズワイ蟹といえば、冬の味覚として知られているかもしれないが、北陸や山陰では夏にもズワイガニを食べる。
といっても、紅ズワイ蟹というちょっとちがう種類の蟹だ。
冬のズワイ蟹は山陰では松葉蟹、福井では越前蟹と呼ばれているが、種類はおなじものだ。
このメスはセイコとかセコとか呼ばれていて、ちょっとややこしいが、種類はおなじだ。ただし、オスとメスとでは全然味がちがう。
メスはおなじ種類かと思うほど小さくて、腹に玉子を抱えている。
が、味はギュッと凝縮されている。
しかし、やはりオスのズワイ蟹と比べると、スケール感が乏しいことは否めない。
私は好きだけど。
私が子どものころはこのセイコをおやつとして食っていたものだ。
これは本当のことなのだ。
ズワイ蟹は漁期は冬場に限られているが、紅ズワイは夏場も漁が許可されている。
夏場の脱皮したてのやわらかい殻の紅ズワイを「ズボ蟹」と呼ぶこともある。
脚の切り口を口にあてて、ズズっと吸うと、中の身がズボっと口の中にはいってくるから、そういうのだろう。
実際、私はいつもそうやって紅ズワイの脚の身を食べる。
紅ズワイは本ズワイに比べてややあっさりした味で、脂が少ない。
さっぱりした味が夏場によく、私は本ズワイより好きなくらいだ。
そしてこの蟹味噌は大変うまい。
最高の食べ方は、生の紅ズワイの身や脚を出刃で割って炭火やホットプレートなどで焼き、軽く塩をする「焼き蟹」だ。
火を通しすぎないジューシーな身を箸でせせり出して、その上にさらに蟹味噌を乗せて食べる。
蟹を丸ごと食べているような濃厚な味わいに、ノックアウトされる。
どんなドラッグよりも強烈だ。
第一足節の一番太い部分は、「ツメ」とか「親指」とかいろいろに呼称されるが、この部分はほかの脚とはまた違った濃厚な味で、うまい。
また脚の付け根の胴体の部分は「肩」と呼ばれて、食べにくいがこれも最高にうまみが詰まっている。
歯が丈夫なら、ガシガシと身をしごいて食べるのがよい。
私は実はここが一番好きだ。
ここに蟹味噌を乗せて、ガシガシとしごいて食べるのがいい。