テキスト表現にはさまざまな形がありますが、養成塾で提出されるのは「小説」すなわちフィクションの形を取るものが多いようです。
また、フィクションにもさまざまな形があります。読むほうはいちいちそんなものは区別してませんが、書き手側は自分がどういうアプローチで書いているのか、ある程度客観的に理解していたほうがうまくいくことがあります。
そんなことを考えずに一気に書いてしまってもいいんですが、フィクションにもいろいろな形があって自分はいまどういうアプローチで書いているのか自覚していたほうがいい場合もあります。これは「技術」に属することがらなので、知らなくてもかまいませんが、知っていたほうが自分の「可動域」が広がることは間違いありません。もっとも、技術にとらわれてしまって、可動域を広げるつもりが逆に「とらわれ」になってしまってはつまらないですが。
石川月海のこの作品のようなアプローチのテキストを、私は「スケッチ」と呼んでいます。
どんな人にも「物語」があります。それはどこか遠くから流れてきて、これからもどこかへ流れていく大きな河のようなものです。そのどこか一瞬を切り取り、あたかも静止画のように描いて読者の前に差し出す。
よく描かれたスケッチは、その前後の物語や、登場人物の世界全体をうまく想像させてくれます。なので、スケッチはなるべく具体的な手触りがほしいのです。
もちろん、抽象的なスケッチも可能でしょう。しかし、まずは具象スケッチをいかに自分らしいタッチで描けるようになるか。これはテキスト表現の練習のスタートとしてかなり有効で、重要なものです。
この「出会う」という作品は、そういう意味で手触りが具体的であり、描かれているシーンの空気や登場人物の匂い、繊細な気持ちの揺らぎといったものが非常に緻密に構成されていて、驚きます。大変すぐれたスケッチだと感じました。ほとんど注文のつけようがありません。
ひとつだけ。「不安」という言葉が何度か出てきますが、これは主人公の気持ちを表す言葉ですね。しかし、具体的な言葉ではありません。「不安」という言葉を使わずにこのスケッチを描けなかったか、ということです。
(以下、作品本体は養成塾のメールマガジンで掲載しています)
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