2013年5月3日金曜日

映画「裏切りのサーカス」

原作はジョン・ル・カレの小説『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』。
ル・カレはいまでは大好きな小説家だが、最初に読んだときには本当にてこずった。
文体やらストーリーやら人物描写が、非常に緻密であるにもかかわらずわかりにくい。
ル・カレの「もののいいかた」があって、それにどっぷりひたって慣れないとそのおもしろさがわからないようなところがある。

この映画もそうだ。
原作を読んだことのない人がいきなり観ると、なにがなんだかさっぱりわからないのではないだろうか。
私は原作を読んだことがあるのに、わからないシーンがたくさんあった。
で、観終わってから頭にもどってもう一度見直したら、伏線やら意味のあるシーンやら、やたらと緻密に作られていて、コテコテの映像なのだ。

最近映画を観る人は、「伏線」というものがもうわからない、という話を聞いたことがある。
15分前のことはもう記憶にないのだという。
ストーリーをただ瞬間瞬間追っていくだけで、映画の作り手もそのように作らざるをえなくなっている、というようなことをいっている人がいた。
そういうことの真逆の映画で、観客に注意力、観察力、知性を要求される。

ともあれ「わかる/わからない」という次元を捨てて、映画という表現の手触りそのものを楽しむことができる作品だろう。
緻密に作られた画面は、それをなめるように楽しむときに快楽がある。

主人公スマイリー役のゲイリー・オールドマンもよかったが、私としてはコントロール役のジョン・ハートの老いぼれた演技もよかった。
音楽のアルベルト・イグレシアスもいい仕事をしていると思う。