バリサクとはバリトン・サックスの業界略である。いや、うそ。
今日のこのライブは「Sound of Vision」と名付けられているはずで、しかも今日が155回めとなるはず。私は2回め。
前回、なんの予備知識もなく、UKAJIさんのこともまったく存知あげずに、ただ「バリトン・サックスのソロライブってどんなんやねん」という興味だけでふらっと行ったのだが、度肝を抜かれてしまって、今回も行くことになった。そのときの感想はこちらに書きとめてある。
その後、いくらか情報を得て、UKAJIさんが1970年代にフリージャズ・シーンで活躍していた宇梶昌二さんであること、げろきょがしばしば遊んでもらっている板倉克之さんらとも交流があったこと、などわかってきた。
その上で、今日のライブ。
実は今日は中野スイートレインで板倉さんのライブがあり、しかもゲストが梅津和時さんで、私は梅津さんの音をまだ聴いたことがなく、かなり後ろ髪を引かれる思いだったのだが、このところ板倉さんのライブはいつも満席で、一方UKAJIさんは数名しか客がいないということなので、UKAJIさんのほうに行くことにした。
銀座に用があって出かけていて、明大前に向かう途中、地下鉄が信号機の故障で遅延してちょっとあせったりしたのだが、なんとか開演に間に合ってはいってみると、今日のお客は私をいれて3人。うちひとりは関係者っぽい女性。もうひとりはアルトサックスでフリージャズをやっているという学生さん。
前回は挨拶があったのだが、今回はいきなり始まった。どうやらバッハの曲らしい。が、一音一音をとてもゆっくりとバラバラに吹いているので、原曲のフレーズが分断されていて、どんな曲なのかまったくわからない。もどかしさと同時に、音そのものの感触へと連れ戻される感触が新鮮だ。
そうやって始まったライブは、非常にエモーショナルな展開になったバッハの無伴奏チェロソナタを含め、1時間半に渡って濃密な音の世界となった。曲の最後でリードが振動する音が消え、さらにそこに息を吹きこむ空気音は、まるで台風のように恐ろしくさまざまなニュアンスを含んだ音響に聴こえた。
最後は思いがけず、スタンダードナンバーの「My Foolish Heart」が出てきて、これまたびっくり。ほとんどアドリブのない、内省的な演奏で、じわっと来た。
今夜もっともうれしかったのは、終わってからUKAJIさんとじっくり話せる機会があったことだ。
終了直後、ホールで話し、その後下のブックカフェ〈槐多〉に移動して話すことができた。まさかUKAJIさんと直接話ができるとは思っていなかった。
たくさん聞きたいことがあって、いろいろ謎だと思っていた演奏方法について教えてもらったほか、音楽に対する姿勢を聞かせてもらうことができた。非常に共感でき、私とも共通の考えが多かった。それにしても、このような音楽家がお客さんに恵まれないというのは、とても残念なことだ。もっと多くの人に聴いてもらいたい。
古いキッドアイラック・ホールで収録されたUKAJIさんの「VISION」というCDを買わせてもらって、サインをいただいた。まだ聴いていないが、聴くのが楽しみだ。