2010年8月7日土曜日

朗読の快楽/響き合う表現 Vol.34

現代朗読協会が初めていただいた助成金というもので、金額こそ少なかったがありがたかった。少なくとも、いままで公演に協力してくれていたメンバーに交通費その他必要経費を支払うことができた。これまでは必要経費すら持ち出しのことが多かったのだ。もちろん私も。

これは世田谷文学館のおかげだったが、世田文(せたぶん:略称)とはなぜか数年前から縁があった。最初のきっかけはなんだったのか忘れたが、2008年2月に生活工房での「庭を編」という展示イベントのオープニングパーティーで、朗読パフォーマンスを依頼された。

造形作家の眞田岳彦さんが中心になって進められていたイベントで、世田谷区内で採れる産物を使って衣服を編み、染色し、展示するというものだった。主催の生活工房は世田谷文化財団の一員で、世田谷文学館もそこに属する組織である。

生活工房から世田谷文学館に、世田谷にちなんだ文学作品の朗読をオープニングでできないかという依頼があり、世田文から現代朗読協会に打診があったというわけだ。文学作品は、世田谷に在住していた徳富蘆花の『みみずのたはごと』を使うことになった。

そもそも世田谷文学館は徳富蘆花にちなんだ「芦花公園」にある。私はさっそく朗読パフォーマンスのシナリオ構成に取りかかり、出演者5人による朗読作品を作った。中心は名古屋の榊原忠美氏で、ほかは協会の朗読者を使った。友人の12歳と4歳の子どもも出演してもらった。

展示会場でのオープニングパーティーの朗読パフォーマンスは、なかなか好評だった。200人くらいの参会者がバラバラと立ったままつどうなか、会場全体に散らばった作品群の間を縫うように動きながら朗読する、という演出だった。現代美術展にはとても親和性がよかった。

これがきっかけとなって、世田谷文学館からまた別の依頼が来た。世田文では区内の小中学校に文学パネルを貸し出して展示したり、ブックトークや朗読を学芸員がおこなう「巡回文学展」という企画をおこなっていた。シャーロック・ホームズ、赤毛のアンなどの紹介だ。

この巡回展示に合わせた朗読公演が、中学校でできないだろうか、という打診だった。実際に展示パネルを見学に行ってみた。ちょうど宮沢賢治の展示をやっていて、写真家による賢治の作品の写真と、作品からの抜粋テキストをパネルにしたものが何枚もならべてあるものだった。

私は宮沢賢治の作品を使った朗読脚本を作ることにした。それを初演する学校は世田谷区立東深沢中学校と決まった。私は賢治のどれかの作品をストーリーに沿って構成することはやめ、10近い作品をコラージュした脚本を作った。協会員4名と歌手ひとり(伊藤さやか)の出演。

予算はほとんどないに等しいほど少なく、採算がとれるどころか、経費に足りないほどだった。が、私たちはその公演を引き受けた。世の中には採算を度外視してもやらなければならない大切な仕事があると思ったからだ。もっとも、いろいろな人からいろいろなことをいわれた。

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