2016年5月8日日曜日

映画:ペイド・バック

2011年公開のアメリカ合衆国、イギリス、ハンガリーの共同制作映画。
監督はジョン・マッデン。
ほかにも「恋におちたシェイクスピア」「コレリ大尉のマンドリン」などを手がけています。

なんの先入観もなくなにげなく見はじめましたが、冒頭数分で「これはかなりクオリティが高い」ということを確信。
音楽でも小説でも映画でもダンスでも演劇でもそうですが、時間軸にそって展開される表現作品の場合、その冒頭だけ見てそれがすぐれているかどうかというのは、だいたいわかるものです。
というか、私はそういうことをかぎつける能力が高いと自負しています。
年の功もあるでしょうが、「作り手」の側からの視線で数多くの表現作品に接してきたからだろうと思います。

この映画は1965年ごろと1997年ごろの時間を行ったりきたりして進んでいきます。
おなじ登場人物が出てきますが、当然、それぞれ違う俳優が演じています。
が、うまくキャラクターの雰囲気がすりあわされていて、違和感はあまりありません。

主人公はイスラエルの諜報機関モサドの工作員・レイチェル。
若いレイチェルをジェシカ・チャスティン、初老の彼女をヘレン・ミレンが演じています。
ヘレン・ミレンは超ベテラン女優で「クィーン」でアカデミー賞をはじめ、各国の賞を総なめしています。
ジェシカ・チャスティンも「インターステラー」や「オデッセイ」などに出ていて、注目の女優ですね。

1997年に、レイチェルの娘が母レイチェルたち三人の活躍を書いた本を出版する、その出版パーティーのシーンが冒頭のほうにあります。
そのときのレイチェルの表情が、この物語の行くすえを暗示します。
娘の晴れがましいお祝いの席であり、かつ、自分たちのかつての輝かしい働きについて書かれた本の出版だというのに、どこか表情が陰っていて複雑なのです。

そのように、役者の演技、小道具、セリフ、エピソード、どれをとってもすべて意味があって、画面も考え抜かれて作られています。
カメラの、いわゆる長回しのシーンもいくつかあって、見ごたえがあります。
巧妙なパズルのように作られた映画といってもいいでしょう。

ベタ誉めですが、欠点がないわけではありません。
悲劇的なエンディングとか、語られていない作家であるレイチェルの娘のこととか。
しかしまあ、それについては逐一書くのはやめます。
それより、観て損はない映画だと、まずはいっておきましょう。

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