2019年1月19日土曜日

私の音楽歴——いかにして即興ピアニストになったか(17)

〈Space B’〉はビーちゃんという、いまでもお元気だと思うが、福井ではちょっとした有名人がやっていた現代美術のギャラリーで、まだ実家にもどって間がないころ、福井にもおもしろい場所がいくつかあるらしいと聞きつけていたひとつだった。

行ってみると、ちいさなギャラリーだったが、土屋公雄さんという彫刻家の個展をやっていて、それはすばらしい作品群だった。
その後、土屋公雄さんとは交流がつづいたのだが、いまや、というかそのころから、日本を代表する彫刻家のひとりだ。

土屋さんとは別に、ギャラリーの主のビーちゃんもおもしろい人で、自身はドラマーなのだった。
フリージャズも好きだということで、当時脚光を浴びていた美術家とのパフォーマンスもおこなっているらしかった。
美術館でのパフォーマンスに即興演奏で加わっていたりして、私も興味を引かれた。
向こうもこちらのことをおもしろがってくれて、近いうちにおこなわれる商店街のイベントでの演奏に誘ってくれた。

臨時にあつらえられた屋外ステージで、ドラムとキーボードによる即興演奏を好きなだけやる、というゆるいイベントで、まあビーちゃんの顔ででっちあがったものだろう。
とにかくおもしろそうだったので引き受けることにした。

地方都市ではちょっと変わったイベントがあるということで、放送がはじまって間がなかったFM福井から、情報番組に生出演して内容を紹介してくれないか、という依頼がビーちゃんを通してやってきた。

放送法が改正されたばかりで、地方都市にもFMラジオがつぎつぎに開局していた。
FM福井も地元の新聞社や銀行などが資本を出してできたばかりだった。
東京FM系列の、ジャパン・エフエム・ネットワーク(JFN)から番組を配信されると同時に、地元オリジナルの番組もけっこう作っていた。

そのうちのひとつに、土曜日の午前中に地域のイベント情報などを紹介する「情報パック」という番組があって、そこに出演することになった。
ラジオに出演するなどというのは、私は生まれてはじめてのことだったし、ビーちゃんもそうだった。

情報パックはFM福井のアナウンサーとディレクター、そしてパーソナリティとして名古屋からやってきたタレントがやっている番組だった。
生放送なので、タレントとアナウンサーから聞かれることに臨機応変に答えなければならない。
しかもこのタレントが一風変わった人で、けっこう意地悪な突っ込みをいれてくるのだった。

私は案外、そういうのは平気だった。
あまりひと前であがるということがない性格で、ラジオでも落ち着いていたけれど、ビーちゃんはけっこうしどろもどろになる場面があって、そのたびに私が助っ人にはいるという格好になった。

番組が終わってすぐ、たぶんその日の午後か翌日のことだったと思うが、ディレクターから私に直接電話がかかってきた。
「番組作りを手伝ってみない?」
というのだった。