小学生の高学年のころから本が大好きになっていた。
きっかけをおぼえている。
5年生のときにかなりひどい風邪をひいて、一週間くらい学校を休んだことがある。
そのとき、父が近所の貸本屋から江戸川乱歩の少年探偵団のシリーズと吉川英治の『宮本武蔵』を何冊かずつ借りてきてくれたのだ。
たちまちはまった。
風邪がなおってからも、せっせと貸本屋に通って、娯楽小説をどんどん読みあさった。
貸本屋だけでなく、学校の図書館の本も片っぱしから読んだ。
そのなかに、少年少女向けの世界SF全集があって、それにはかなり夢中になった。
そのまま中学生になってもSF小説を読みつづけ、子ども向けではなく大人向けの小説も読んでいった。
ハインライン、アシモフなど、王道の作家から愛読し、しだいに周辺の作家にも手をのばしていった。
音楽でも小説でもそうだったが、田舎町に住んでいたおかげで、カルト的なものには触れる機会がほとんどなかった。
なにか興味を引かれてその世界にはいろうとしても、メインストリームのものしかとりあえず田舎では手に入れることができなかった。
工夫すれば周辺のカルト的な情報にも触れることができないことはなかったが、そこにいたるには田舎でも手にはいる主流のものからはいっていく必要があった。
私の音楽歴も、読書歴も、そのようにメインストリームのものからスタートしている。
SF小説もそうだが、中学生になると、家の書棚にならんでいた大人向けの世界文学全集と日本文学全集を片っぱしから読んでいったり、親に買ってもらった旺文社の文庫サイズの文学全集を大事に読み返したりしていた。
私の文学体験はかなり系統立っているといえる。
そのことが、のちの「ものを書く」ことに非常に役に立ったという実感が、振り返ってみればたしかにある。
バンドマン生活がほぼ破綻し、暇ができた私は、机に向かって小説を書きはじめた。
どうせ書くなら自分が読みたいものを書こうと思った。
書きはじめたのはSF小説だった。
そのころ『デューン砂の惑星』というフランク・ハーバートの長編SFにはまっていて、それは砂漠の惑星の話だった。
そこからヒントを得て、私は海におおわれて陸地がまったくない惑星の話を書いた。
それがまさか自分の商業小説家デビュー作になるとは思いもよらなかった。