2020年7月12日日曜日

essay 20200712 ヨット乗り

妄想の人生シリーズその2。

私は学生時代、ヨット部だった。
その後ヨットの仕事にはつかなかったが、小説家になったときに、ヨットの雑誌から、ヨットの小説を書くよう依頼があった。
南の島の写真を見て、妄想をめぐらし、海や船にまつわる短編を書く仕事だ。
実際にそれは小説として結実したわけだが(水色文庫収録)、同時に自分にどのような人生があり得るかという妄想を、今もときどきするのが楽しい。

私は貧乏なヨット乗りで、自分の船を持っていないが、ときどき大金持ちのヨット乗りから依頼されて、レース用のヨットを海をわたって回航する仕事を依頼されることがある。
たいてい学生アルバイトの男とふたりペアになって、南太平洋を東から西へ、西から東へと船をあやつって移動させる。
船の上はもちろんその学生とふたりきりで、たいていはシフトのためにお互い顔を合わせたり会話をすることはない。
島に寄港すると、船を桟橋に停泊させ、われわれは地元の酒場へ酒を飲みに行く。
漁師たちとばか話をしたり、旅行中の金持ちと世界情勢について議論をしたりする。
島での補給がすむとわれわれは、次の補給の島へと向かって再び船を出発させる。
結婚もせず、私はそんな日々を過ごしている。

そんな楽しい妄想をしながら、私はふと我に返る。
この男、年老いたらどうするんだろうな。




From editor


水城の「海とヨット」のシリーズは軽妙でお洒落な、商業小説家らしい作品群と言っていいと思う。それでいて不可思議なテイストがあって、そこが個性なのだろう。
私と知り合う前、水城はそんな小説家らしい小説家だったらしい。
「天空の島ラピュタ」公開の年、SF冒険小説で徳間書店からデビューし(デビューにまつわるエピソードは、小説家を育てる気概を持った昭和の編集者が、住所さえわからない投稿者の出身地をたどって連絡をとるところからはじまる、漫画原作になりそうなシンデレラストーリーだ。クライマックスは筒井康隆氏が編集部に置いてあったその刊行前の小説を読んで「俺が帯を書く」と言う場面?)、パソコン通信で「小説工房」を主宰し、当時ネットをやっているプロの小説家はまだ少なかったので、当時ライター兼エディターだった私が取材を申し込んだのが、最初の出会いである(メールの文体から私のことを男かもと思っていたらしい)。
その後、水城はノベルスやジュブナイルを少し書いて、エンターテインメント系から離れていった。そして朗読のためのテキストを書くようになり、本当に書きたいことを書きたいように書く、そしてそれを声にしてもらうことに喜びを感じる作家になった。
もっとも、著作収入は1/100以下になったはずだ。

水色文庫」にあるのは朗読に適した文字数の掌編小説が中心だ。
ぜひ声にして、Youtubeなどにアップして、知らせてほしい。
そのうち水城作品の朗読シリーズをまとめたYoutube再生リストかチャンネルを作りたいものだ。


▼水城ゆうの支援サイトを作っていただきました!