2011年2月9日水曜日

声優やアナウンサー、ナレーターが生き残る方法(2)

取り替え不能のタレントについてかんがえる前に、「技術」についてかんがえみたい。
技術というのは、かつては「art」であり、それを持つ者は「talent」であった。特別な存在だといえた。
が、近代以降、情報伝達の方法が発達するにつれ、技術は情報として人から人へと伝えることができるものになった。だれもが学び、訓練することによって、特定の技術を身につけることができるようになった。
「art」という言葉のニュアンスは変化し、技術は「skill」や「technique」という言葉のほうがしっくりくるようになった。代わりに「art」は芸術方面に意味がシフトした。
かくしてアーティストと技術者は異なる人種となった。

技術者はその技術をだれもが獲得できる以上、取り替え可能である。
ある旋盤加工の技術があって、その技術はだれもが訓練によって取得することができる。その旋盤加工をおこなうのに特定のだれかでなければならないという理由はない。
特定のだれかでなければならない、という場面がおとずれるのは、それが非常に特殊な技術であり、ほかの人が簡単に習得できないものであるときだ。これを「特殊技能」という。

話を声の仕事にもどす。
声優やアナウンサー、ナレーターの世界における技術とは、日本語の発音・発声技術のことになる。正確な発音、共通語イントネーション、日本語の読解能力、イメージ豊かな表現力、体力、体調管理能力といったようなものになるだろう。これらはいずれも、ある一定の方法と努力をもってすれば、(身体的な障碍などの)特別な事情でもないかぎりだれもが身につけることができるものだ。
もちろん、付加価値的な技能もある。英語などの外国語が話せるとか、早口言葉がだれより速く正確にいえるとか、歌って踊れるとか。しかしそれは別の話だ。どちらかというと「芸能」方面の話になる。

では取り替えがきかない声の表現者とはどういう人なのか。
私がかんがえる声の仕事における取り替え不能の人とは、コミュニケーション能力にひいでた者のことだ。
コミュニケーションといってもさまざまな面がある。インタビュー相手や一般人、仕事仲間、上司、クライアント、それらのあらゆる面で「この人を使いたい、この人と仕事をしたい」と思わせるのは、すぐれた技術だけではない。その人の魅力そのものであり、その人の魅力を存分に伝えることができるコミュニケーション能力であろう。
いっしょに仕事をしていて楽しくなったり、現場が盛り上がったり、それによって生産性が向上するようなコミュニケーション能力を持った人。
クライアントのニーズを適確に理解し、それに応えることができるコミュニケーション能力。
子どもやお年寄り、あるいは一流のプロも含むあらゆる人ともコミュニケートできる柔軟で芯の強いコミュニケーション能力。
職業的な日本語表現者にもとめられているのは、これにほかならない。

コミュニケーション能力は向上させることができるのか。
できるとすればどうやればいいのか。
最後に告知をさせていただきたい。
せっかくのすぐれた技術を持っていながら、現場で使い捨てられそうになっている人をひとりでも救いたい。また、これからそういう業界で生きていくことをめざしていて最初から取り替えできない魅力的なタレントとしてやっていきたい。そういう人を対象に、アイ文庫ではあらたにセミナーをスタートさせる。
数多くのラジオやテレビ番組、ナレーション、ラジオドラマ、オーディオブック、podcast、映像プログラム、ライブパフォーマンス、朗読や音楽の公演をプロデュースしてきた経験から、日本語表現者にもっとも有効なスキルについての個別レッスンに近い形でのセミナー「プロのための音声表現スキルアップセミナー」を開催する。
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