今回の旅の主目的のひとつ。
音読トレーナーのなおみさんが、友人の日本人ピアニスト・ゆみさんと組んで、シャルシュタット(フライブルクの隣)の高齢者介護施設で不定期におこなっている音読療法を使ったケアワークを見学すること。
数年前から「行く行く」といっていながらなかなか来れなかったので、行く行く詐欺にならなくてよかった。
午前9時すぎになおみさんが車でホテルの前まで迎えに来てくれた。
乗りこんで、さっそくシャルシュタットに向かう。
シャルシュタットにはピアニストのゆみさんが一家で住んでいて、介護施設はそのすぐ数軒隣にあるのだ。
ときおり強い風雨がまじるあいにくの天気だが、私はわくわくしていた。
ゆみさんとは初対面だ。
合流してあわただしく挨拶したあと、すぐに介護施設を訪問した。
施設ではこちらを待ちかまえていて、すでに入所者と職員のみなさんが勢揃いしていた。
片側にキッチンがしつらえられたオープンなミーティングスペースで、なおみさんとゆみさんはさっそく楽器の準備に取りかかる。
この施設にはピアノがないので、キーボードを持ちこんでいるのだ。
私のことも紹介してくれた。
ドイツ語なのでなにをいっているのかわからないけれど。
職員のみなさんからかたい握手で歓迎された。
握手といえば、ドイツの方の握手はとても力強くて、ときに握りつぶされそうになる。
女性でも手加減なし。
こちらのほうが力負けしてしまう。
さっそく始まった。
撮影はできないので、私はようすを簡単にスケッチした。
ご挨拶、呼吸法からはじまり、なじみのドイツ歌曲の歌詞を使って音読、リズム読みなど、これは日本での音読ケアワークと変わらない。
テンポがいい。
とてもにぎやかでパワフル。
職員のみなさんも協力的で、いっしょに盛りあげてくれている。
盛んに会話が飛び交っている。
歌もはじまり、次々と何曲も歌っていく。
そんなようすを横からながめながら、私はなぜか、胸が熱くなるのを覚えた。
東日本大震災を機に私が日本ではじめた音読療法が、こんな離れた異国の地でいきいきと使われ、現地の高齢のみなさんを癒やし、活気づけている、そんなのを目のあたりにして、なにかがこみあげてきたのだ。
本当にうれしく、ありがたいと思った。
ケアワークが終わってから、所員の方からおみやげのチョコレートをプレゼントされた。
これも思いがけずうれしいことだった。
片付けて施設をあとにし、今度はゆみさんのお宅にお邪魔した。
お菓子とお茶をどんどんすすめられた(大阪のおばちゃんノリで)。
お嬢さんも付き合ってくれた(かわいらしい17歳、しかしこちらではもうお酒を飲めるそうな)。
ドイツのこと、ドイツ人と日本人のこと、介護ワークのこと、若い人の学校や仕事のことなど、たくさんおもしろい話を聞かせてもらった。
本当に楽しいひと時だった。
たっぷり2時間近く話しこんで、ようやくゆみさんの家をあとにした。
ゆみさんとは日曜日の「日本文化の日」のイベント会場でも会えるはずだ。
こちらも楽しみだし、私もこちらでピアノを演奏することになっている。