サティは西洋音楽史上、大変重要な人物であるとされながら、ほぼ同時代の作曲家であるドビュッシーやラヴェルと比べると、ずっと知名度は低かった。私も学校の音楽の授業でサティの名前や曲を聴いた覚えはほとんどない。
サティの名前を知ったのは、はるかに成人し、音楽の仕事に関わるようになってからだと思う。私の個人的印象だが、サティという作曲家が評価され、曲がこれだけ聴けるようになったのは、割合最近のことではないか。
ともあれ、サティの曲は一度聴いたら二度と忘れられない。
はっきりいって読みにくい本だが、サティについていくつか印象的な記述がある。
「エリック・サティは超越的理想主義者で(中略)理想主義は大衆には理解されない。どんなに多くの人間が、ただ世俗的な財産を築いたり己れの虚栄心を満足させたいがために、芸術に勤しんでいることか! それは逆に、飽食して無思想に生きるよりは、貧しくても自分の思想に忠実に生きることを選んだ」
サティは生涯独身であり、貧窮の人であった。
スチュアート・ミルは、
「生活の足しになる文章は生きる足しにはならない」
と書いている。
サティが孤独を選んだのは、芸術を理解しない大衆に絶望したからであろうか。
『エリック・サティ』アンヌ・レエ/村松潔・訳/白水Uブックス