2016年4月6日水曜日

朗読生活をはじめるにあたって

現代朗読協会が正式に特定非営利活動法人(NPO法人)として東京都から認可を受け、旗揚げ公演「おくのほそ道異聞」をおこなってから、ちょうど満十年が経過した。
振り返ってみると、ずいぶん遠くに来た感じがある。
多くの講座、公演、社会活動をおこなってきたが、けっしてまっすぐ進んできたわけではない。
むしろ、ずいぶんあっちへ行ったりこっちへ来たり、紆余曲折に満ちた十年であったように思う。

ここ数年は、しかし、ようやく「現代朗読」の内容がさだまり、その方向性がはっきりしてきた。
身体表現としての朗読にあたって、その基礎となるトレーニング法も確立してきた。
現代朗読のトレーニングをおこなうことで、朗読表現だけでなく、さまざまな表現行為にアクセスしたり応用する道すじができたし、また日々の日常生活や仕事のなかでも役立つことがわかってきた。
私自身もそのように感じている。

現代朗読の講座というと、どうしても朗読をやっている人や朗読に興味がある人が来ることが多いが、すでに「朗読ってこんな感じ」という一定のイメージを自分のなかに持ってしまっている人は、現代朗読がおこなっている朗読表現へのアプローチに接するととまどうことが多いように見受けられる。
それより、音楽をやっていた、とか、演劇やダンスが好き、とか、現代アートが好き、という人がおもしろかってくれるケースが多い。

「朗読」ということばがはいっているため、本来は表現全般に応用できるようなことをやっているのに間口が狭くなってしまっているのではないか、という危惧をずっと持ちつづけていた。
そこで、今回、朗読に「生活」ということばを加えて、よりひろく関心を持ってもらいたいというねらいで「朗読生活のススメ」というコースを開催することになった。
もちろん、それ以上に、「朗読生活」という表現を実生活の柱のひとつに据えたあたらしい生活スタイルの提唱をしてみよう、という目的もある。

「朗読生活」を提唱するもっともおおきな理由は、朗読をふくむ表現行為を日常生活のなかに置くことで、生活のクオリティが大きく変わるきっかけになるからだ。
私自身、そのような実感がある。
表現行為が日常にあるのとないのとでは、まるで人生の質がちがうように感じる。

のちほどくわしく述べていくが、自分を表現するという行為に向かうというのは、自分自身を知る、自分自身に問いを投げかける、そのなかで自分のとらえかたや世界のとらえかた、見え方が変質していく可能性に向かう、ということでもある。
決めつけや思いこみを検証し、気づき、そして自由な精神に向かう、ということである。
ただルーティーンをこなしていたり、ただ消費するだけの生活から、表現についてかんがえて、トレーニングする時間を持つ生活にシフトすることで、人生は大きく変化する可能性がある。
場合によっては、実際に表現の場を持ったり、生産する側になったり、ということにも向かうかもしれない。

表現行為にはそのような可能性があるのだが、たくさんある表現ジャンルのなかでもとくに朗読(現代朗読)は敷居が低く、だれでもいつでもどこでもはじめることができる。
特別な訓練や準備はまったく不要だ。
まとまった時間も必要ない。
日常のなかのちょっとしたすきま時間――ほんの数分あれば朗読の練習ができる。

このような手軽さのなかで、しかし深く自分自身と世界に向かいあい、マインドフルに感じ、気づき、フレッシュな時間をあらたに生きていくきっかけをつかむことができるのが、「朗読生活」である。
最後までお付き合いいただきたい。

体験参加可「朗読生活のススメ」(4.9)
すべての人が表現者へと進化し、人生をすばらしくするために現代朗読がお送りする、渾身のシリーズ講座ですが、単発の体験参加も可。4月9日(土)のテーマは「朗読を通して知る自分/自分とはなにか/身体に気づく」。