2010年9月14日火曜日

NPOの運営の難しさ(現代朗読協会の実例)

NPOは「特定非営利活動法人」のことだが、「非営利」と冠されていることで「お金を稼いではいけない/儲けてはいけない」と誤解される方が多い。
決してそんなことはない。法的にも保障されている。ただ「主目的」が「営利」であってはならない、ということである。
営利を主目的としない活動をする団体をNPOという。運営してみるとわかるが、団体の活動と運営には実際的な経費や設備が必要となる。だから、可能ならば活動のなかからそれらの経費をまかなうだけの「利益」をあげられることが理想である。
しかし、もともと営利を目的としていない活動のなかから必要なだけの利益をあげていくのはなかなか難しい。だから「会費」の形で徴収する団体が多い。現代朗読協会も正会員には「年会費」をお願いしているが、何百人、何千人も会員を集められるような活動内容ではない。
現代朗読協会は朗読の実演者やそれをめざす人の団体なので、多くの会員を集めるような性格のものではない。会費のみでは運営は難しい。

運営にかかる経費はさまざまなものがあるが、もっともウェイトを占めるものが活動拠点の維持経費である。運営事務、稽古、ワークショップ。
現在、世田谷区羽根木にある築75年の庭付き古民家を格安で借りているが、それでも家賃、光熱費、さまざまな維持経費をいれて、(非常にざっくりした数字だが)毎月20万程度は必要だ。都内で活動している実演団体はたいていおなじような事情ではないかと思われる。
その他、パンフレットやチラシを作ったり、経理など諸事務をおこなうにも経費はかかるが、この人件費の部分は現在、捻出できていない。団体によってはきちんと収益をあげ、専任の事務員や有給理事を置いているところもあるようだが、現代朗読協会はまだそこまで至っていない。
現代朗読協会の収益の大部分は、ワークショップやゼミ、講座などの参加費で構成されている。ライブや公演をよくやっているので、その収益がかなり大きいと思われているようだが、まったくそんなことはない。ライブはほとんどが赤字に近いギリギリのラインでやっている。
赤字にならないといっても、もちろん手伝ってくれた人の人件費や交通費(たまにほんの一部出ることもあるが)や、もちろん出演料、演出料、脚本料などはまったく算入していない。それらの犠牲の上に立っての「非赤字」である。
大きな公演も同様だが、人件費については少しだけ違う。
ホールを借りるような大きな公演になると、我々だけではできないさまざまなことが発生する。とくに照明、音響、舞台監督などは専門家に頼むことが多く、その経費は割愛できない。また客演の役者や音楽家も、非常に安くはあるがギャランティーをあらかじめ設定し、了解してもらう。
したがって、大きな公演で多くの人が入場したとしても、出費も同様に大きく、ほんの数回のステージでは収益をあげるのは難しい。実際、昨年9月の名古屋市芸術創造センターでの「Kenji」2回公演では、数十万の赤字となり、それは主催者が最終的にかぶることとなった。
だからといって、公演自体が失敗したわけではもちろんない。公演は多くの方に観ていただけたし、大きな感動を共有することができた。大成功であった。
このように、商業的な仕組みのなかでやっていない以上、ライブや公演で大きな収益をあげることは難しいし、めざしてもいない。

話をもどす。ワークショップやゼミ、講座などが収益の大半だと述べたが、この実情について正直に明かす。
ワークショップは現在、かつておこなっていた体験WSや一日講座を含め、開催していない。理由は手伝ってくれるメンバーも不足、無償講師の負担があまりに大きいこと。
体験WSは参加費が1,000円、一日講座は10,000円と、低額の設定なので、参加者が少なければ、会場費や、手伝ってくれるメンバーの交通費すらまかなえないことがある。ましてや、資料や講義の準備を何日もかけておこない、現場に臨む講師の講師料もまかなうことは難しい。
現在おこなっているのは「話し方講座」(次回は来週20日)のみだが、これは先月スタートしたばかりのもので、これもまた参加費は3,000円に設定されている。参加者が少なければまた経費に苦労することになるが、いまのところ参加者はとても少ない。
しかし、内容は非常に充実したものであり、参加してくれた人にはとても喜んでもらうことができた。大変ユニークなアプローチ方法なので、ほとんどの人が驚くような内容なのだ。だから、我々としては自信をもっておすすめしたいところなのだが、よく宣伝ベタといわれてしまう。

運営費の一部としてもっとも助かっているのは「ゼミ費」である。正会員のうち「ゼミ生」として参加している人たちが、毎月定額を支払ってくれている。その額は決まっていない。1万円以上の人もいれば、1,000円の人もいる。金銭だけが団体に貢献できる方法ではないから。
とはいえ、物理的に金銭は必要なので、定額収入は大変ありがたい。
ゼミ生がいまのおよそ倍くらいの人数になれば、経費の心配が少なくなる。ただし、講師料や事務などの人件費は除く。現在の不足は、理事複数名の「持ち出し」および借金によって補填されている。
毎月の補填額は増えつづけているのが実情で、実をいえば私はこれまで何度か、現代朗読協会の運営の継続を断念しかけたことがある。
いまは、とにかく物理的に破綻するまではつづけようと思っている。

我々に足りない部分を真剣にかんがえてみることにした。
現代朗読協会に参加している人は、皆、その有用性を認めてくれている。
「ここに来ることが私の安心です」
といってくれる人もいる。活動によって人生観が変わった人すら多くいる。
私たちがやっている表現と運営方法が多くのコミュニティに取りいれてもらえればうれしいと思う。
しかし、現代朗読協会の存在や、活動内容を知る人は、とても少ない。やはり課題は宣伝・告知をどうするか、ということだろうか。それもお金をかけずに。
幸い、労力を無償で提供してくれる仲間が多くいる。そのことは私の大きな希望である。