ひさしぶりにメルドーを聴いた。
10年ほども前の一時期、メルドーばかり聴いていたことがあった。
バンドでの演奏もすばらしいが、メルドーはソロがとくにすばらしいと思っている。
完全即興のソロパフォーマンスですばらしいのがたくさんある。
おなじような意味でキース・ジャレットもすばらしいが、ブラッド・メルドーはキースとは異なった方向の音楽性を持っていて、より前衛的、実験的、挑戦的といえる。
そして今回、バッハをテーマにしたアルバムが出た。
アルバム構成がおもしろい。
まず最初に「Before Bach: Benediction」という即興曲が置かれている。
バッハを弾く前の、バッハ的気分での即興という感じの曲。
かなり前衛的な感じだが、バッハに対する感謝の念をあらわしているのだろうと思う。
つづいてバッハの平均律クラヴィーア曲集から、プレリュードの第3曲。
楽譜通りに弾いている。
それを受けて「After Bach: Rondo」という即興演奏。
プレリュードのモチーフを使っているが、8分の5拍子という変拍子での演奏。
即興なのでモチーフからどんどん発展していって、大きな距離を移動する。
そのあとも基本的に、バッハの曲、それを受けての即興演奏とつづいて、全部で5組のバッハ曲と即興演奏が収められている。
最後に「Prayer for Healing」というスローテンポの、ヒーリング音楽のような即興で締めくくられる。
聴き慣れたバッハの曲と、まったく聴いたことのない前衛的なメルドーのパフォーマンスのバランスがおもしろい。
即興演奏部分だけだったらこのアルバムはどれだけの人に聴かれ、どれだけ理解されるのだろうと疑問に思うが、バッハをモチーフにしたことで多くの人が楽しんで聴けるものになっているのだろう。
ところでバッハは書き残された楽譜で愛されている音楽家だが、じつは即興のオルガン奏者としてのほうが当時は名をはせていたということは、意外に知られていないことなのではないだろうか。