2018年3月19日月曜日

熊谷守一「生きるよろこび」展

東京国立近代美術館で熊谷守一「生きるよろこび」展を観てきた。
熊谷守一という名前を知らなくても、絵を見ればだれもが「ああ、この人ね」とわかる、ポピュラーな絵をたくさん描いた人だ。
とくに97年という長い生涯の後半に描かれた、輪郭のくっきりした、版画とも思えるような明快な画面は、いまでも多くの人に愛されている。

私自身はといえば、正直、あまり興味を持っていなかったのだが、ふと気が向いて展覧会に行ってみることにした。
没後40年という節目に開催された、けっこう大きな回顧展で、来場者の年齢層はかなり高め。
私などはもっとも若い世代にはいるだろう。

展示はおおまかに製作年順になっていて、最初期から最晩年まで網羅されている。
それがおもしろかった。
とくに最初期から中期にかけて、まだクマガイモリカズスタイルが確立される前の、さまざまな試行錯誤や実験、挑戦がつづいていた時代の作品が、私にとっては刺激的だった。

それらを観たあとで、後半の確立したスタイルの画面を観ると、それが単純明快なようでいて、じつはかんがえ抜かれ、趣向をこらしたものであることが見えてくる。

一貫しているのは、光と陰、形と補色を追求していることだ。
最初期の、真っ暗といってもいいくらいの影の多い画面が、後半にはまるで影のない、あっけらかんと明るい作品になるのだが、よく見るとじつは後半のほうが影に満ちているという不思議がわかってくる。
明色が補色と対比され、どの作品も明るいのに陰影が大きく配置されている。
魔法のようだ。

とはいえ、スタイルが確立されたあとの作品群は、私にとっては退屈に思える。
そこに至るチャレンジの時代が刺激に満ちている。
自分は本当に変化やチャレンジが好きなのだなと、あらためて確認した。
そして初期から中期にかけての作品にも、本当に素敵な、心が洗われるようなものがいくつかあって、楽しかったな。