2011年8月2日火曜日

朗読と呼吸

朗読は言葉を使う表現であり、言葉は声からできる。声は声帯を震わせることで生まれ、声帯の振動は呼吸によって生まれる。呼吸のクオリティはそのまま、朗読のクオリティへと反映される。
オーディエンスは朗読される「物語」を聴くと同時に、朗読者の呼吸を聴いている。
物語は顕在意識で聴き、呼吸は潜在意識の部分で聴いている。朗読者が不安定な呼吸をしていれば、オーディエンスも不安を感じ、朗読者がゆったりした呼吸をしていれば、オーディエンスも落ち着いた気持ちになる。朗読表現にとって呼吸は非常に重要な要素だ。
そういう観点から、現代朗読ではさまざまな呼吸法を検証しながら取りいれてきた。この過程で、呼吸法には朗読表現のみならず、現実の生活に役立つさまざまな利点があることがわかってきた。つまり、朗読のための呼吸法をやることによって、いろいろなメリットが生まれるのだ。

現代朗読における呼吸法は、いろいろなものがミックスされている。声楽の呼吸法、体操の呼吸法、合気道や古武道の呼吸法、ヨガの呼吸法など。
試行錯誤でいろいろやってきたが、最近はっきりしてきたのは、呼吸は身体全体のコンソールのようなものだということ。
たとえば、不随意神経系である自律神経へのアクセスが呼吸によって可能になる。自律神経は交感神経と副交感神経のペアで成り立っているが、呼吸法でそのどちらかを活性化することが可能になる。
浅く素早い呼吸のとき、交感神経が優位になる。深くゆったりした呼吸のときには、副交感神経が優位になる。とくに現代人は交感神経ばかり働くシーンが多いので、副交感神経を優位にする呼吸法が有効だ。ヨガ、合気道など、有効な呼吸法がある。

呼吸は普段、とくに意識することがなくても自然に行なわれている不随意筋の働きでもあるが、意識的に行なうこともできる。不随意と随意の交差点にあるのが、呼吸という行為であるともいえる。これをうまく使うことで、不随意神経へのアクセスができる。
また呼吸法によっては、呼吸筋のみならが、姿勢筋の鍛錬もおこなうことができる。腰痛などにも有効だと思われる。横隔膜と肋間筋を動かすことで、現代人がうっ血しがちの中丹田周辺の神経叢や内臓に血行をうながし、活性化することもできる。結果的に、自律神経が安定し、不安やストレスが軽減され、代謝が促進され、免疫力も増加することになる。
現代日本はさまざまなストレスや不安、環境汚染、放射線の問題など増える一方で、個人の力では対処できない問題が多く存在する。
それらに少なくとも自分の身体性を整えることで対処する方法はある。もちろん朗読を含む表現行為を生活の柱とすることで、イキイキと世界と関わっていくことができると思う。