多摩総合医療センターの再来受付機に診察カードを通し、出てきた紙きれと呼出し機の表示にしたがって、地下の放射線治療の階へ。
この日が放射線治療を受ける初日だ。
私のような食道ガンにかかわらず、ほとんどのガンの標準治療は、切除手術もしくは抗がん剤治療からはじまる。
私の場合、ガンがすでに大きくなりすぎていて、食道ガンの手術では比較的負担の少ない内視鏡手術ができる段階をすぎていた。
したがって、最初に医師から提示されたのは、抗がん剤治療でガン組織を小さくしたあと、開腹による切除手術だった。
しかし、開腹手術は食道ガンの場合、とても大がかりなものになる。
またそれをおこなったからといって、かならずしもガンが完全になくなるとはいえない。
どこに転移しているかわからないし、実際に私の場合も、すくなくとも発見しただけでも3か所のリンパ節への転移がすでにあった。
抗がん剤の治療も1週間程度の入院による点滴投与を、すくなくとも4回はおこなわなければならない。
副作用も大きいことが予想される。
その間は通常の生活は送りにくい。
抗がん剤治療をしぶる私に、担当医はセカンドオピニオンをすすめてくれた。
それが6月末のことだ。
*
食道ガンが見つかったのは、5月20日ごろのことだ。
食事をしていて、ものが通りにくく感じて、この日はとくにひどくて食べているものが途中でつっかえて、涙目になるほど痛かった。
水を飲んでなんとか通したのだが、じつはこういった状態が数か月前から時々あった。
最初は胸のまんなかあたりに違和感があって、不整脈のような感じだった。
食事時以外にもその感じが四六時中あって気になるので、近所のハートクリニックに行ったのが2018年12月はじめのことだった。
心電図をとり(異常なし)、念のためにホルダー検査というのを受けた。
電極を胸に貼りつけて、24時間心臓の動きをモニターするのだ。
それでも異常は見つからなかった。
非常に健康な心臓だと保証された。
ただ、そのときに医師から、
「ひょっとして食道ということもありますよ」
といわれていたのだが、そのときはまったく気にせずに流してしまった。
あとからかんがえると、すでにそのときにガンが肥大化しはじめていたのかもしれない。
もともと大食い・早食いの癖があって、口いっぱいに頬張ってよくかまずに呑みこめば、当然のことながら喉につっかえそうになることがしばしばあった、というのもある。
兆候を見逃したのは自業自得だろう。
さらにその前から兆候があったかもしれない。
現在、食道の痛みとともに、転移しているリンパ節周辺の痛みもあって、たぶんそのせいだと思うのだが、まるで胃潰瘍そっくりのしくしくする痛みが、胃のあたりにあるのだ。
これは不整脈のように感じた違和感よりさらに前からあった。
それもいれると、1年以上前から兆候があったのもかもしれない。
まったくうかつなことだ。
自分の講座などで、人には口をすっぱくして「身体に注目する、身体の声をよく聞く」などと指導しているくせに、自分の身体のこととなるとまったくお留守になっていたのは、お粗末としかいいようがない。
(つづく)