アズワンのグループ会社のなかでもっとも大所帯である「おふくろさん弁当」を訪れた。
配達の担当をしている林玲子さんにお話をうかがう。
鈴鹿市内に1000食以上を毎日配達し、社員とアルバイトを含めて70人以上が仕事にかかわっているという。
その全員がアズワンのメンバーというわけではないが、半分以上はアズワンコミュニティに属しているようだ。
しかし、アズワンメンバーであろうがなかろうが、すべての社員がひとりひとり大事にされている。
あたらしくおふくろさん弁当で働きはじめることになった人に最初に聞くのは、
「どのくらい働きたいですか?」
ということだという。
子どもを持っているあるお母さんは、その質問を受けて涙ぐんでしまったらしい。
通常「こちら」の世界では、社員の働き方は会社が決める。
何時から何時まで働いて、休みはいつ、といったふうに。
しかしおふくろさん弁当では、働き方は社員が自分で決める。
会社はそれに合わせてスタッフや仕事のやりくりをする。
たとえば配達係の人が同時に何人か休んでしまったとする。
そもそもそのように休んでしまえることが許されている。
人には個々にそれぞれの都合があり、子どもの行事があったり、自分や家族の健康状態の変化があったり、予期せぬできごとが起こったりする。
それは普通に生活していればあたりまえのことであり、突発的なできごとを予測したり、止めることはできない。
まずはそのことを「あたりまえ」のことととして会社が受け入れている。
そのときにどう対処できるか、それについて全員が自分の問題として共有して、工夫しているのだ。
配達係が同時に何人か休んでしまったとき、そのことがすぐにLINEでコミュニティ内に流され、都合のつく人がかけつけてくる。
配達係も相互に、自分の担当以外の地域も回れるように、日頃ルートを覚えておく。
こういった工夫がさまざまにされている。
もうひとつ、大変印象的なエピソードがあった。
ある配達員が30食という大口の注文を配達した。
それを車から運ぼうとしたときに、手がすべって30食すべてを地面にぶちまけてしまった。
あわてて会社に電話したら、ちょうどその日は休日でたまたま早めに家に帰って夕食のしたくに取りかかっていた社員が何人か、自分の家のご飯を持ってかけつけてきた。
お客さんには30分だけ待ってもらい、みんなで手分けしてすばやく30食を用意して、ことなきを得た。
そのとき、失敗した社員をだれも責める人がいなかった。
仕事をしていれば失敗することもある。
そんなとき、たいていは会社から叱責され、場合によっては始末書を書かされたり、減給されたりする。
そういう処遇はいっさいない。
ないばかりか、社員全員がいかにこの事態に対処できるかいっしょに楽しんで乗りきってくれた。
自分が失敗してもしかられない、ということがわかっている職場で、人はどれだけのびのびと自分の能力を発揮できるだろうか、と思うのだ。
好きなときに休める、好きなときに働ける、失敗しても責められることがない、思いつきはどんどんやってみる、うまくいかないことはみんなで調べて研究材料とする。
この会社には社長はいないそうだ。
「社長係」という人はいる。
対外的に会社の体裁をたもつためにそのようになっているそうで、社長係の人はなにをやっているかというと、みんなの話を聞き、困ったことがあれば手を差し伸べ、引越しの手伝いにかけつけ、といったことを喜びをもってやっているのだそうだ。
(つづく)