SCS(鈴鹿カルチャーステーション)をあとにして、街のはたけ公園に向かう。
住宅街の真ん中に広々とした畑やハウスがある。
ここは子どもたちや街の家族がおとずれるコミュニティファームであると同時に、SUZUKA FARM株式会社というアズワンが経営する法人の生産の場でもある。
ここで作られた野菜は、アズワンが経営する別の会社「おふくろさん弁当」や、お金のいらない店「ジョイ」、その他に出荷されていく。
広い畑にはほうれん草、小松菜、水菜、ブロッコリ、カリフラワー、日野菜、大根、かぼちゃ、トマト、きゅうり、レタス、キャベツ、白菜、人参、などなど、さまざまな野菜が有機農法で作られている。
中井さんというおもしろいおじさんが案内してくれた。
案内してもらううちに、中井さんが本当に楽しんでこの仕事をしておられる感じがひしひしと伝わってきた。
仕事をしている、というより、遊んでいる、といったほうがいいかもしれない。
自分がやってみたいことはどんどん試してみる、それで遊んでみる。
このファームだけでなく、どこへ行っても、みんなが遊んでいる、楽しんでいる、そのことをだれもとがめない、責めない、責任を追及しない、失敗しても許される、むしろ失敗したことは「調べ」の対象としてみんなでかんがえる材料になる、といった空気が、アズワンにはある。
それがどれだけ人間を創造的にさせるか、ちょっとかんがえみるとすぐにわかる。
実際にその場に身を置いてみて、私も、自分がここにいたらどれだけ楽しいだろうかと実感して、とてもうらやましくなった。
というのも、私はつぎからつぎへといろいろなことを思いついてはやってみたくなる人間で、しかしそういうことを現実社会でやるとかならず失敗するし、そのことで責めを負うことになる。
だから、思いついてもいいだせない。
思いつきを口に出したとしても、だれかから「それって責任負える? 失敗しない保証はある?」と追及され、しょぼしょぼと引っこめてしまう。
そういう場面はアズワンには一切ない。
辻谷さんという方がハウスのなかで働いておられた。
このハウスは、おどろいたことに、里山で採れた薪を使って地面の下から温める設備になっていて、ドラゴンフルーツやパッションフルーツなどの南国の果物がたわわに実っている。
辻谷さんはブラジルに長く暮らしていたことがあるとのことで、その頃に作っていた熱帯の植物を鈴鹿でも作ってみたいと、実証実験をはじめていまにいたっているようだ。
そのような試みも、各自がだれかのうかがいを立てることなく、勝手にやっていることが許されている。
ファームの奥のところに、中井さんが「浄土池」と呼ぶ水たまりがあった。
これは中井さんが重機を借りて掘り、当初は蓮池にしようともくらんでいたものだが、思うとおりにいかず、ザリガニに侵入されて蓮は全滅、いまは水も濁り、この先どうなるやらと試行錯誤をしているところだという。
ちょっと困った顔をされていたが、しかしあきらかに楽しんでいる。
果樹園もある。
みかんの木がたくさん植えられていて、こちらでもさまざまな工夫や実験がされているようだ。
それらの試みが、個人の思いつきや好奇心でどんどん進められていけるところがすごい。
普通の農場や会社だったら、なにかあたらしいことをはじめようとすると、いちいち上のおうかがいを立てたり、企画書を作ってプレゼンテーションをおこなってみんなの合意をえなければならないのだが、アズワンではそんなことは一切しない。
やりたいと思ったら、その人がすぐに勝手にはじめてしまう。
それに興味を持った人がいたら、勝手に手伝いはじめる。
うまくいけばそれらは事業になるかもしれないし、失敗するかもしれないが、それはそれで研究対象となる。
みかんを木から直接もいで、いただいた。
おいしかったな。
柿もその場でもいで、切り分けてもらったのをいただいた。
びわの木がたくさん植えられていて、幼木も多いが、大きな木はいままさに花が咲いていて、虫がたくさん蜜を吸いに来ていた。
ミツバチもいた。
虫やミツバチがいるということは、ここには薬害がないということで、生き物にとっても優しく豊かな土地ということになるだろう。
ファームの横の作業小屋では、何人かが作物の仕分け作業をしていた。
前述したように、たくさんの野菜がコンテナボックスに分けられ、出荷されるのを待っていた。
(つづく)