2017年12月31日日曜日

音楽:オレゴン・イン・モスクワ

北陸の山間部の田舎町に暮らす高校生が、FMラジオで生まれて初めてジャズミュージックに触れ、夢中になったとき、とりわけ熱中したのは、そのころに全盛期をほこっていたバンド〈ウェザーリポート〉だった。
ウェザーリポートのほかにも、ちょうどフュージョン(当時はクロスオーバーといっていた)が盛んになってきていたころで、こんなのジャズじゃない、などといわれながらもリスナーはどんどん増えていた。
私もウェザーリポートだけでなく、チック・コリアの〈リターン・トゥ・フォーエバー〉とか、ハービー・ハンコックとか、いろいろなフュージョンを聞きあさっていた。

これらの音楽は電気楽器が特徴的で、シンセサイザーやエレクトリックベース、エレキギター、その他電気的なエフェクトを通した音色が多用されていた。
帝王マイルスもトランペットにエフェクターを通して吹いていた。

私はごく最近まで、自分はそういった多彩な音色や電子楽器に興味をひかれていたんだとばかり思っていたが、どうも違うらしいということに遅まきながら最近気づいた。
というのも、〈オレゴン〉というグループを再聴しはじめたからだ。

オレゴンはその名のとおり、オレゴン出身のミュージシャンが集まって作ったフュージョングループで、電子楽器も使っていたが、それが特徴というわけではなかった。
彼らの特徴はジャンルにとらわれない、まさに融合されたサウンドやリズムワークにあった。
とくにクラシック音楽やインド音楽、その他民族音楽を取りこんでいて、初期のオレゴンはインド楽器のタブラやシタール、そしてジャズではめずらしいオーボエがメロディ楽器として使われていた。
オーボエはいま現在もオレゴンサウンドのシンボルとしてつづいている。
オーボエ奏者はポール・マッキャンドレス。

彼はオーボエのほかに、私が知るかぎり、ソプラノサックスやバスクラリネット、その他さまざまな吹奏楽器を扱っている。
ポールのほかに、オレゴンの初期メンバーは、ギターとピアノ(キーボード)のラルフ・タウナー、ベースのグレン・ムーア、タブラやシタール、パーカッションのコリン・ウォルコットの4人だった。
私が最初に聴いたのはたぶん1975年ごろで、インド音楽やアラブ音楽、あるいはヨーロピアントラディショナルのテイストなどが交錯したサウンドで、心底びっくりした。
ずっと聴いていたかったが、ジャズの世界ではオレゴンというグループはあまり有名ではないみたいで、ウェザー・リポートやキース・ジャレット、チック・コリア、ハービー・ハンコックなどに比べればまったくオンエアのチャンスが少なかった。
それで、なけなしの小遣いをはたいてLPレコードを買って、すりきれるまで聴いたことを思いだす。
そのアルバムだって、田舎のレコード店では入手するのが大変だった。

その後、しばらくオレゴンのことは忘れていたのだが、十数年前にラルフ・タウナーがソロでしばしば来日していることを知り、また彼のすばらしい『アンセム』というアルバムにしびれたりしたことがきっかけで、またオレゴンを聴くようになった。
メンバーは、パーカッションのコリン・ウォルコットが1984年という早い時期に自動車事故で他界していて、いまはパーカッションやドラムスが別メンバーに交代しているが、その他の3人は相変わらず元気に活躍していることがうれしい。
ただ、サウンドは当然のことながら、初期オレゴンとは変化しており、そのことをあまり歓迎しないファンがいることも理解できるが、私は変化を楽しんでいる。

そして、表題のアルバムだ。
オレゴンは基本的に4人というコンボ編成で多彩なサウンドを繰り出すことが魅力なのだが、このアルバムにかぎっていえばオーケストラとの共演となっている。
まさに共演で、オーケストラサウンドをバックアレンジにくっつけたというようなものではなく、このアルバムのためにオレゴンとオーケストラのサウンドを融合させるためにスコアを書いているのだ。

スコアはラルフ・タウナーが大部分を、ほかのほとんどをポール・マッキャンドレスが書いているようだ。
アルバムタイトルを見て、モスクワのオーケストラ? ん? と思った私も、1曲めの「Round Robin」の美しいアレンジを聴いて打ちのめされてしまった。

オーケストラはモスクワ・チャイコフスキー交響楽団。
難しい譜面を楽団はスリリングに弾きこなしている。
それにしても、難しいアレンジ譜をよくも遠慮なくぶつけたものだと感心する。

たとえば、クラシック演奏家にとっては面倒なはずのリズムの煩雑さ。
オレゴンにとってはあたりまえのことなのだが、6拍子と5拍子が交互になった曲、あるいは11拍子の曲など、とても面倒。
「イカルス」という曲も6拍子と5拍子が入り混じった曲で、オレゴンの4人メンバーではちょくちょく演奏しているが、オーケストラとからむとなるとややこしくなる。
しかし、その複雑さを感じさせない、美しいアレンジで、幻想的な曲をスリリングに盛りあげている。

とにかく、もうずっと、何度もなんどもヘビーローテーションで聴いていたいアルバムなのだ。
ひさしぶりにそんなアルバムに出会って、そしてオレゴンがいまだに健在であること、オレゴンを牽引しているラルフ・タウナーやポール・マッキャンドレスがソロでも活躍をつづけていることなどを知って、まだまだ楽しみがあるのだろうとわくわくしている。

それにしても、彼ら、私より10歳以上も年上の先輩なんだなあ。
私もがんばらねば。

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