2019年10月1日火曜日

偶有性の「いま」を生ききるための選択(末期ガンをサーフする(18))

週末は調子がやや低迷していた。
金曜日に照射治療を受けたあと、その足で湘南に向かい、サーフィンをやってきた。
海は偶有性に満ちていて、あらかじめなにかを予測したり、準備したり、コントロールすることが難しい。

サーフィンといっても、自分でできることはほんのすこし。
あとは巨大な水のエネルギーに任せ、逆らわず、遊ばせてもらうだけ。
そのためには神経系をひらき、全身を開放する必要がある。
これってガン治療にかなり効果的なんじゃないか。
なんてことを個人的には感じているのだが、どうなんだろう。

エビデンスがあるのかないのか知らないが、自分の身体が喜んでいることは確かで、いまのこの時間を自分が喜ぶことに使ってマインドフルにすごすということ自体がうれしくありがたいことだろう。
こういう時間を持てる自分の境遇に感謝。

土日は全身を使った余韻でやや疲れが残り、思いがけない筋肉が発熱したような感じがあったりして、元気いっぱいというわけにはいかなかった。
回復をはかるために寝たり起きたりしていた。
それでも出かけたり、人が来たりと、そこそこいそがしくすごしてはいたけれど。

9月30日、月曜日。午前10時。
18回めの放射線治療のために東京都立多摩総合医療センターに行く。

うちから歩いて病院まで行く途中に〈たまらん坂〉という清志郎の歌で有名なみじかい坂がある。
たいした坂でもないけれど、そこをのぼっていくと体調がてきめんにわかる。
調子が悪いときは、そんな坂でも息切れしてしんどい。
調子がいいときはへっちゃらだ。

今日はまずまず、へっちゃらの部類だった。
週末の疲れはだいぶ回復した。

  *

8月7日、水曜日。
病院でひと晩すごして、朝食のあと、担当医の見回りがやってきた。
医師が数人と看護師が何人か、テレビドラマで見たように「行例」みたいな感じでやってきて、ちょっとびっくりした。

ともあれ、担当医に、
「抗がん剤治療は受けないことにします」
と告げる。
「そうですか。ではあとであらためて今後の治療方針を相談しましょう」
ということで、いったん去っていった。

待機していると、午前中の遅い時間に担当医がふたたびひとりでやってきて、別室に招かれた。
せまい相談用の部屋で、冷房が効きすぎていて寒かった。

抗がん剤治療を受けたくないという私の意志を尊重してくれた上で、もう一度治験を申請してみるという提案もあったが、それも断る。
「まだ若いのにもったいない気もしますが」
と前置きした上で、
「放射線治療を組んでみましょう。その選択も充分にありえますから」
といってくれた。
私もそれを受け入れることにした。
それはすでに決めていたことだった。
最後にまた「もったいないですね」といわれたが、私には気にならなかった。
私にとってなにが「もったいない」ことなのか、すでにはっきりとわかっていたからだ。