明大前〈キッド・アイラック・アート・ホール〉のギャラリースペースにて、何回めになるんでしょうか、数えたことがないのでわかりませんが、たぶん12回か13回めだと思います、「沈黙[朗読X音楽]瞑想」公演をおこないました。
この東京でももっとも歴史の古いといわれるキッドは、年内で閉館されることが決まっています。
残りすくないチャンスを大切にしようと臨んだ公演でした。
参加者はいつものように少なかったのですが、とても深いつながりと濃い体験を共有することができたように思います。
残りすくないチャンスを大切にしたいといっていた割には、この日のための新作テキストがなかなか仕上がらず、実際にこの日のためのテキスト「編む人」を朗読の野々宮卯妙に渡せたのは、公演当日の午後1時をすぎたころでした。
私は原稿が早いほうで、たいていは事前に余裕をもって渡すことができるのですが、長年のライブパフォーマンスの相方でもある野々宮はギリギリに原稿を渡しても読んでくれる、そのクオリティにはまったく心配はない、という信頼があるので、甘えてしまうのです。
書き手はできるだけぎりぎりまで時間を稼いで粘りたいという心理があります。
そして粘ったときはそれだけのものが生まれることがあるのです(もちろんないこともありますが)。
夕方、国立在住で参加してくれるという藤田さんもいっしょに、明大前に移動。
会場入りしてみたら、ピアノの位置が移動しています。
前回も移動していました。
前回はそれはそれでおもしろかったので、そのままやったんですが、今回もおもしろいのでそのままやることにしました。
今回のピアノの位置は階段の下。
それを背後から囲むように折りたたみ椅子の客席。
吹き抜けの上の階である4階にも席があります。
オーディエンスは椅子から立ちあがったり、移動したり、階段を昇り降りして3階と4階を行き来できるようになっています。
朗読者の野々宮もそのように動きます。
時間が来て、まず沈黙の朗読パートからスタート。
朗読からはいるのか、ピアノからはいるのか、なにも決めていません。
どういうふうに読むのか、どんなふうに演奏するのかも、決めていません。
ただただ、いまこの瞬間の自分自身と相手と、参加のみなさんと空間と、漏れ聞こえてくる街の音を身体のなかにとおし、そこから生まれてくるものに耳をすまします。
今回は朗読からスタートしました。
それを聞きながら、私もはいれるタイミングでからんでいきます。
自分がどんな音を出すのか、予測もできません。
完全にいまこの瞬間の、瞬間が点、点、点とつづいていって連続した線になっていくような濃密な時間感覚のなかにいます。
このフロー状態からさらにゾーンへとはいっていく感じは、いつも独特です。
自分が自分でないような、自分の細胞一個一個が独立した生命になっているような、それでいて全体が空間と接続しているような、不思議な感覚もあります。
野々宮が読んでいるのは私が書いたテキストにちがいないのですが、まるで初めて聴くことばのようにも聞こえます。
気がついたら前半の沈黙の朗読パートが終わり、濃厚な沈黙の時間。
二、三分でしょうか、そのあと音楽瞑想パートへ。
瞑想しながら演奏するというのは、一種の動揺禅のような感じです。
参加者のなかにも身体を動かしていた人がいたようです。
私にとっても、参加してくれたみなさんにとっても、現代生活のなかにはまずない時間と空間の体験だったのではないでしょうか。
しかしひょっとして、人が文明化する前の時代、人が自然と共存し持続可能な生活を送っていた時代には、このような時空体験は日常的にあったのかもしれません。
現代ではわざわざこのような時空をしつらえないとなかなか体験しにくいものです。
いつも不思議なのですが、今回も終わったらぴったり60分が経過していました。
時間をはかっているわけでもないのに、不思議です。
終わってからささやかなつまみと飲み物を出して、みなさんと談笑。
この時間がまた楽しいんですね。
私にとって、この公演の準備も、本番も、終演後の語らいも、すべて貴重で大切なものです。
ご参加いただいたみなさんには本当に感謝を申し上げます。
ひょっとして今回が最後になるのかなと覚悟していましたが、ホール側のはからいでもう一回、やらせていただけることになりました。
ありがたいことです。
そして今後こそキッド・アイラック・アート・ホールでの最後の公演となります。
12月12日、月曜日の夜です。
平日の夜ではありますが、お越しいただけるとうれしいです。
ただしあまり大きな空間ではないので、人数次第では受付を終了させていただくこともありますので、ご了承くださいますよう。
◎「沈黙[朗読X音楽]瞑想」公演@明大前(12.12)
深くことば、静寂、音、そして空間とご自分の存在そのものをあじわっていただく「体験」型公演です。年内閉館が決まっているキッド・アイラック・アート・ホールでの最終公演となります。