2016年3月1日火曜日

山田みぞれ「ありふれた朗読会 Vol.2」

現代朗読・ゼミ生の山田みぞれの朗読会に行ってきた。
会場は阿佐ヶ谷の〈オノマトペ〉というこじんまりしたギャラリー。

あとで聞いたら、みぞれの夫のたかさんのアイディアだそうだが、ステージにあたる場所には布が垂らしてある。
2枚の大きな、やや透ける接着芯の布で、真ん中で軽くとめて1枚になるようにして吊るしてある。
その奥の、部屋のコーナーにあたる低い位置に、照明がひとつ。

山田みぞれはその照明と布のあいだにはいって、オーディエンスに姿を見せない状態で朗読する。
テキストは宮沢賢治の「貝の火」。

みぞれは動きながら読むが、布の向こうからは出てこない。
透ける布なので、照明で逆光になった姿がぼんやりと見える。
そしてその身体が作る影が布に映って動く。

照明、朗読者、その影が予測できない動きを作り、複雑な表現になる。
朗読者から発せられる声はその実体とシンクロしているが、声が思ったより反響するギャラリー空間で音がまわってこちらに届いてくる。
そして、影の動きとその音とはずれがあり、いささかエキサイティングな効果を生んでいる。

ギャラリーは幹線道路に面しており、通りを歩く人の足音、話し声、車やバイク、バスの通過する音、発車する音、救急車やパトカーのサイレンといった、いわば日常空間に直結する音がたえず侵入してくる。
その日常の音と、宮沢賢治のテキスト、空間をまわる朗読の声、影の動きが複雑に交錯して、いわば前衛的なインスタレーション空間をかもしだしている。

ごくたまに、布の端や隙間からみぞれの本体が覗くことがある。
それが驚くほど生々しい瞬間的な効果を生む。

みぞれは外から侵入してくる音にも反応している。
反応というより、受け取っている。
朗読者が外から侵入してくる音を受け取っているかどうかは、私のような専門家でなくてもオーディエンスには(たとえ無意識であっても)わかっているはずだ。
外からの音や刺激をシャットアウトし、感覚を閉じている朗読者と、感覚を開いて表現している朗読者とでは、その表れがまったく違うものとなるのは、すこし想像してみればわかることだ。

とても刺激的な朗読ライブだった。
朗読演出をやっている身として、山田みぞれにさらに伝えたいことがある。
現代朗読ゼミで伝え、試してみる機会があるといいなと思う。
山田みぞれには、空間と時間を操作するスキルを今後身につけていってもらうと、さらにすごい朗読表現者になるのではないかと想像している。

現代朗読体験講座(3.5)
朗読をはじめてみようと思っている方、すでにやっているけれど物足りなさや壁を感じている方、その他表現に興味のある方、まずは進化しつづける現代朗読を体験してみませんか。3月5日(土)午前、羽根木の家にて。