2016年5月4日水曜日

人には多様なニーズがあるということにあらためて気づく

共感的コミュニケーションもしくはNVC(=Nonviolent Communication/非暴力コミュニケーション)の世界にいるとつい忘れてしまいがちですが、社会にはまだまだ前時代的な価値観にしばられて自分の人生を自由に生きていない人が多くいます。
たとえば、
「女は夫を支えて家庭を守り、子どもを産んで育てて、夫の両親の介護や看取りをするものだ」
というような価値観。
70代、80代の高齢者ならともかく、私よりずっと若い40代、50代の人にもそのような価値観をいまだに持ちつづけている人がいることに驚くことがあります。
しかも、それは女性ばかりではなく、男性のほうがむしろ多いように感じます。
彼らはその価値観を「嫁」である自分の愛する妻に押しつけているのです。

共感カフェにやってきた40代のひとりの女性は、その目的を、
「夫にいわれたんです。おまえは人の気持ちがわからない。おれがなにをしてほしいのか、どういうことをしてもらいたがっているのか、いちいちいわれなくても黙って察してすばやく行動すべきだ、と」
といいました。
あきらかに「共感」の意味を取りちがえています。

共感とは、人の気持ちやしてもらいたいと思っていることを「察する」ことではなく、相手がなにを大切にしているのかそのニーズを推測し、また実際に聞いて確認することで、相手とつながり、お互いに尊重しあうことです。
けっしていわれてもいないことを「察して」、先回りして相手の望みをかなえることではありません。

私は彼女の話を聞いたとき、最初は彼女のことがかわいそうになりました。
前時代的な価値観を夫や姑から押しつけられ、自分の行動の自由や選択肢を奪われ、まるで奴隷のような嫁の立場に閉じこめられているみじめな女性のように思えたからです。
実際に彼女の行動は制限を受けています。
勝手に仕事を求めて社会に出ることは許されていません。
子どもを作ることを押しつけられ、それがなかなかかなわないとなると不妊治療を命じられます。
夫や姑のいうことに逆らうことは許されません。

いまどきそんな家があるんだということに驚きますが、よくよく聞いてみると、彼女自身は自分のそのような立場に甘んじている部分がなきにしもあらず、というようすなのです。

彼女が夫や姑のいいなりになり、従っているのは、なんのニーズがあるからでしょうか。
彼女は夫や姑といさかいを起こしたくないのです。
彼女は家庭に争いがなく、平和であることが大切で、たとえそれが表面的であれ平和裡におたがいがつながっていることが大事です。
その自分のニーズを満たすために、彼らに逆らわないという戦略(ストラテジー)を採用しているのです。

私の価値観からしてみれば、もしそれが自分の生きていくための戦略だとしても、とても自分の人生を生きているとはいえず、かわいそうだ、と感じてしまいますが、しかし彼女には彼女の価値観があるのです。

時々、夫と仲が悪く、悪口ばかりいっている人がいて、そんなに旦那のことが嫌いならさっさと別れてしまえばいいのに、と思うような方に会いますが、そんな彼女もまた、自分が苦労することなく毎日好きなことをして気楽に生きていく手段として、結婚生活を維持するという戦略を採用しているのでしょう。

私はそのことを尊重したいと思います。
しかしやはり、そういった人もまた、自分のニーズに深くつながり、自分自身の人生を、たとえそれが波乱に満ちたものだとしても、生きてもらいたいなあと思います。
それもまた、私の個人的な価値観にはちがいないのですが。

5月開催:水城ゆうのオンライン共感カフェ(5.9/23/30)
自宅や好きな場所にいながらにして気軽に参加できる、ネットミーティングシステム(zoom)を利用した共感的コミュニケーションの60分勉強会、4月の開催は5月9(月)16時と20時、23(月)20時、30(月)20時です。