わざわざいうまでもないが、超高齢化社会を迎えてさまざまな問題が山積している。
が、いまはここで、いちいちそれら社会問題をあげつらうつもりはない。
まずは自分自身の問題としてとらえてみたい。
私はいま58歳で、組織に属したり会社に勤めているわけではないのであまりピンとこないが、たまに同級生や同年代の者と話しているときに、「もうすぐ定年」とか、「定年になって余裕ができたので」といった言葉を聞くことがあって、ちょっとハッとする。
そうか、そういう年齢になったのか、とあらためて思うのだ。
つまり、初老であり、自分も老齢に差しかかっているということに、あらためて気づく。
若いころは想像もしなかったし、想像もできなかったけれど、自分がどのように歳を取り、どんな老人になり、どのように死を迎えるのか、という問題が目の前に迫ってきている。
30代、40代の若い人も、自分の親がそのような年齢に差しかかっていて、ときにそのようなことが頭をよぎるかもしれない。
音読療法協会では「いきいき音読ケア」として老人ホームなどを訪問することがあるが、そのときにお会いするお年寄りたちを見て、自分もこのようになるのかな、と思ってみるが、どうしてもその姿に重ならないいまの自分がいる。
施設に入らなかったり、介護を受けずとも、死ぬまで元気に畑に出たり、絵を描いたり、レジャーに打ちこんだりする人たちもいる。
どうすればそのように元気なまま老いることができるだろうか。
「介護予防」ということばがある。
ネットで検索してみると、このところ非常に多く記事になっていて、ニュースリリースなどでもしょっちゅう検索に引っかかってくるが、一般人にはまだほとんど知られていない。
「介護を予防する」つまり「要介護者にならないように健康維持をはかる」という概念で、いま、各自治体がこぞって力を入れはじめている。
それには非常に明確な理由がある。
冒頭に述べたように、超高齢社会に突入しつつある日本では、高齢者医療や介護保健の費用が爆発的にふくれあがっている。
それを各自治体が税収、介護保険料、地方交付金などでまかなっているわけだが、それが財政をいちじるしく圧迫して不健全な状況が進展している。
そのために、すこしでも要介護者を減らそう、あるいはその増加率を抑えようと、介護予防運動に力を入れはじめているというわけだ。
各自治体は独自にさまざまな介護予防運動の手を打ちだしているが、まだまだ足りない面があると私はかんじている。
音読療法協会のオーガナイザーとして、いろいろな現場を見てきた私としては、介護予防にはいくつかの要件があるとかんがえている。
(1) 健康維持のための無理のない運動
(2) 知的好奇心を刺激する内容
(3) 豊かなコミュニケーション
これらすべてを満たしているのが音読療法だ。
(1)の運動については、各自治体も手をかえ品をかえさまざまな内容を打ちだしているが、音読療法では呼吸法、発声、そして音読エチュードという、一見運動とはあまり関係がないような内容となっている。
しかし、実際におこなってみればわかるが、軽く汗ばむくらいにしっかりとした運動だ。
呼吸も音読もコアマッスルをしっかりと使うので、無理のない安全な運動だし、また体幹を整えることで高齢者特有のバランスを崩すことが原因の怪我や事故を防ぐことができる。
また、免疫力も向上するので、病気予防の効果も高い。
(2)と(3)も非常に重要だとかんがえていて、これらによって高齢者は人としての尊厳を保ちながらいきいきとした社会性を持ちつづけることができるだろう。
老人ホームに行くと、認知症の高齢者を相手にまるで幼稚園児のような扱いの「お遊戯」をさせている場面を見ることがあるが、音読療法では文学作品や唱歌の歌詞をテキストに使うことで、知的レベルを落とすことなくみなさんとプラクティスを進めていく。
そしてそこでは「共感的コミュニケーション」という、NVC(=Nonviolent Communication/非暴力コミュニケーション)をベースにしたお互いの価値を尊重しあう共感的なつながりを作るコミュニケーション・スキルが導入されている。
音読療法は高齢者対象だけでなく、さまざまな年齢、ケース、状況で役に立つものだが、とくに介護予防の分野で今後大きな役割をはたしていけるのではないかとかんがえている。
そのための音読トレーナーの育成や、自治体などに対する介護予防講座の提案を、音読療法協会では急ピッチで進めているところだ。
近いうちに職業音読トレーナーや職業音読療法士をまとまった数で世に出す計画も進んでいる。
私自身も音読療法を実践することで、自分の介護予防運動を促進したい。
◎ボイスセラピー講座(10.25)
10月25日(日)13:00-17:00は羽根木の家で音読療法協会のボイスセラピー講座です。呼吸、声、音読を使っただれにでもできるセラピーで、自分自身と回りの人を癒してください。