最近けっこう有名になってきて、来日もしているらしいんだけど、まったく知らなかった(とはいえ、最近のジャズシーンからはとんと遠ざかっている)。
ファビアン・アルマザンという名前のピアニストで、キューバのハバナ出身らしい。
幼少のころからクラシックピアノをみっちりやっていて、演奏を聴くと、なるほどさりありなん、という感じ。
どこがそんな感じかというと、ブラッド・メルどーもそうなんだけど、いわゆるジャズピアニストの奏法である左手でコードもしくはテンションノートによるバッキング、右手でメロディラインやアドリブフレーズ、というスタイルをあまりとっていない。
右も左も自由に動いていて、左のラインもアドリブフレーズとしてときに重要な役割をになっている。
クラシック音楽でいえば、バロック音楽の対位法的な感じ。
しかし、そんなみみっちいことよりも、なによりも、音楽性がすばらしい。
たまたま最初に聴いたのが『Alcanza』というアルバムで、全体が組曲のような、物語のような感じがする構成になっている。
映画音楽のように映像やストーリーを連想するサウンドだ。
いいのだ、これが。
もともと映画音楽そのものも好きだが、映画音楽的なサウンドが好きだし、自分でも演奏するとき、朗読という、いわばストーリーと共演することが多い。
そもそも私自身、演奏家であると同時に、小説家でもあるわけだし。
アルマザンの音楽はまぎれもなく長編小説だ。
ジャズ的だし、間違いなく現代ジャズの語法で語られているのだが、サウンドはクラシック的であり、フォルクローレ的でもある。
ストリングスがはいっていて、しかしそれは「ストリングスがはいっているジャズ」とか「ストリングスがはいっているイージーリスニング」といったものとはまったく違っていて、サウンドの重要なパートをになって仕組まれているのだ。
YouTubeを探すとストリングスがはいったバンドでのライブ映像がすこし出てくるが、トランペットやサックスの位置にストリングスがいるといってもいいくらいだ。
『Alcanza』ではもうひとつ、ボーカルのカミラ・メザがすばらしい。
チリの人らしくて、本国ではジャズミュージシャンとして第一人者で、自身の大きなバンドも率いていたらしいが、いまは活動拠点をニューヨークに移している。
ソロアーティストとして十分にすばらしい人だが、アルマザン・バンドのボーカル(とギター)としてはまりきっている。
良質の映画を一本観たあとのような、良質の文学作品を一冊読んだあとのような、なんともいえないふくよかな、同時にいても立ってもいられないようなクリエイティブな刺激をもらった音で、ひさしぶりに何度もリピートしながらこれを書いている。
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