2017年5月9日火曜日

祈る人シリーズ第5集『舞踏病の女』の「はじめに」

先日、私の短編小説集『祈る人』シリーズの第5集である『舞踏病の女』が電子ブックKindleからリリースされました。
そのまえがきとして書いた「はじめに」の部分を、紹介させていただきます。

ちなみに、この本のダウンロード価格は300円です。
Kindle unlimited(読み放題)にも登録しています。
こちらからどうぞ。

『祈る人5 舞踏病の女』の「はじめに」

 世田谷から国立へと活動の拠点を移して一年がたとうとしています。さまざまなことが大きく変わりました。
 世田谷で長年おこなってきた現代朗読協会という表現団体の活動が終息した、ということが大きいことのひとつとしてあります。しかし、朗読にかかわる表現活動を停止したわけではありません。団体運営からは手を引きましたが、音楽を筆頭とする自分の音声表現にたいする熱意はなにも変わりません。変わらないばかりか、ますます熱く燃えあがるような気がしています。
 私の音声表現の活動には特徴があります。私は小説家であり、ピアニストでもあるので、ことばと音楽をミックスさせた表現がしっくりくるのです。
 この活動がどこからはじまったのかははっきりしています。二十代なかばから関わっていたラジオ番組の制作と、その出演者とはじめたライブパフォーマンスです。
 ラジオでは、私がスクリプト(原稿)を書き、それを俳優が朗読する、そしてディレクターが音楽をつける、というスタイルの番組を作っていました。その俳優(名古屋の怪優・榊原忠美氏)と朗読と即興ピアノ演奏によるライブパフォーマンスを、番組制作と平行してはじめたのも、二十代なかばのことでした。
 以来三十五年、このスタイルはいまにいたるまでずっと継続し、表現方法やクオリティも進化=深化しつづけてきたと自負しています。
 この『祈る人』シリーズではそういったラジオ番組や朗読パフォーマンスのために書いたスクリプトを中心に収録してきましたが、この第五集ではいよいよ近年の、朗読パフォーマンスのためだけに書きおろした作品が登場してきます。とくに、いま私が自分の活動のなかでもっとも重要だと位置づけている「沈黙の朗読」のために書きおろした作品群は、思いいれの深いものです。
 どうぞゆっくりお読みください。そしてもしよければ、声に出していただいたり、また朗読会などで使っていただけるとうれしいのです。そのときはじめて、私の作品は完成したといえるのですから。

   二〇一七年五月 東京国立にて  著者しるす