2020年7月23日木曜日

essay 20200723 「カメレオンの目」2

女が甜茶を運んできた。
その仕草にかいがいしさはなく、むしろ気だるさに満ちた、見ようによっては億劫そうなものだった。
彼女がなぜそこまで自分の面倒を見てくれるのか、彼は知らなかった。

北からの戦線が迫ってきている。
耳障りなシーリングファンの音が、彼を苛立たせる。

女の目的が金ではないことだけは確かだった。
国からの送金はもう数か月途絶えている。

ひと抱え以上ある巨大な金魚鉢の向こうに、極楽鳥花の花が上をむいて咲いている。
女はこの花が好きらしい。
自分は少なくとも、女にとってこの極楽鳥花以上の存在理由を持っているのだろうか。




From editor


「カメレオンの目」で本当に編集者としての役割を負うことになった。
こんなふうに作者にべったりはりついて、文章チェックや提案や質問や校閲にかかわる話ができるのは理想的なのか、地獄的(?)なのか。とはいえ私も覚悟を決めることにして、1を編集者モードで読み直して修正。

まさかこんなふうにこんな小説が始まるとは思ってもみなかった。とても楽しみだ。
時代はいずれ明らかになるだろうが、私が1を読んで想像していたのとは違ったので、いきなり予想を裏切る設定にちょっと興奮する。

「実はこういう小説を読みたかったのだ」(水城デビュー作の帯に筒井康隆氏が書いた評より)


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