2020年7月22日水曜日

essay 20200722 「カメレオンの目」1

天井のノイズが耳に障る。
奥の部屋から漂ってくる香《こう》のにおいは、女が器用に素手のままで火を消して回っているので、やがて薄れて消えていくことだろう。

女がこちらにやってきて、ベトナムなまりの強い中国語で、
「お粥食べるか」
と聞く。
食欲はまったくない。
「少し」
と彼は答える。

この女の世話がなければ、自分の命がいくらもないことを彼は知っている。
嘘と不誠実にかこまれた人生のどん詰まりを、彼は漂っている。





From editor


今日の演奏は文章とリンクしているそうです(これまではまったく無関係です(笑)、念のため)。

水城は絵を描きピアノを弾き音声入力で短文を書く、と三面六臂の活躍ぶりに見えるが、それ以外はずっと頭を垂れて折れ曲がった状態で座っている。痛みで体が伸ばせずこの姿勢をもう半年以上続けているのだ、寝ても覚めても。
まるで落ち込んで固まっている人のようだ。
本人はその姿勢がいちばん痛みをやりすごせるそうなのだが、呼吸は制限されるだろうし、いくら「良い姿勢」はないといっても、健康な人がこの姿勢でいると勝手にうつうつとしてくるのではないかと思える姿勢なのだから、心配になる。
でも、なにか言ったりしない。待つ。