2020年6月18日木曜日

essay 20200617 ピアノのもとへ

階段の手すりに片手でつかまって、二階から一階のピアノの置いてある部屋まで降りていく。
手すりにつかまっていない方の手には、ピアノ収録用のソフトが入っているラップトップを持っている。

痛み止めがあまり効いていないときには、この移動はなかなか厳しい。
そして慎重派でもない自分が、慎重に手すりにつかまってバランスを崩さないように一歩一歩階段を降りていく。
痛みは呼吸と連動しているようで、一方進むために酸素欠乏のようになる。一方進むために息苦しくなって動きを止め、両手でどこかにつかまって呼吸を整える。そして少し動けるようになってからまたまたピアノに向かって歩く。

ピアノの前にラップトップを置き、オーディオインターフェースと接続し電源を入れる。
録音用のファイルを開き、セッティングを呼び出す。

昨日は椅子を変えた。
かなり低い椅子だったのでピアノ全体の高さも低くしなければならなかった。ピアノスタンドごとひっくり返し、危うく怪我をするところだった。こういう些細なことに気をつけないと、私のやりたい事はそこで永久に終わってしまう。

息を整え、頭の中を真っ白にしてから、録音ボタンを押し、おもむろに鍵盤に指を乗せる。
ただただ自分に正直に、偽りなく、醜い自分も、みっともない自分も、格好つけず、大きく見せようとせず、ただただ誠実に、まっすぐに表現する。
もちろんうまくいくとは限らない。うまくいかない方が多いくらいだ。でも私にできることは、うまくやろうとか上手に聞かせようと言うことではなく、ただただ自分がありのままにやれることをやるだけだ。
それで許されないと言うなら、それはそれでやむを得ないことだ。


From editor

ピアノは私の足の上に落ちたのです。
それで水城さんの足はことなきを得ました。
なぜそのことは書かれないのだろう(笑)。