そのときは豪徳寺の酒屋の地下室を活動拠点としていて、その三月には港区の小ホールで旗揚げ公演「おくのほそ道異聞」をおこなったのです。
名称こそ現代朗読となっていましたが、そのときにはまだ現代朗読の方法がまだまだ確立されておらず、真髄となるコンセプトも未成熟でした。
なので、寄せあつめメンバーによる公演の準備は、現在ではかんがえられない旧来然としたガチガチの稽古方法で、チームビルディングも暴力的なものでした。
おかげで、公演が終わってからメンバーがほぼ半減し、かなりボロボロの状態からのスタートとなったのですが、それはかえってよかったかもしれないといまは思えます。
なにかがうまくいっていないとき、そこにいづらい人を無理につなぎとめておいてもいいことは起こらないし、本当にその場を必要としていてみずから協力してくれる人しか残らないからです。
その後、現代朗読の方法やコンセプトは何年かかけて成熟していき、参加する人もそれを理解し、おもしろがってくれる人が中心になりました。
二〇一三年夏に「キッズ・イン・ザ・ダーク――夏と私」という公演をキッド・アイラック・アート・ホールでおこない、現代朗読という表現の明確な形のひとつを提示できたのではないかと思います。
以後、なかなかメンバーがそろわず、大きな公演を成立させるにはいたっていませんが、現代朗読というまったくあたらしい朗読表現のアプローチを示せたことは、大きな成果だと思っています。
朗読といっていますが、ひょっとして朗読という形式を借りた身体表現のなにかといえるものかもしれません。
法人認可からちょうど十年、私はこの協会が主催する講座、ワークショップ、ライブ、公演のすべてにかかわって、主宰してきました。
そしていま、ここに、現代朗読についてのすべての考え方、方法論を提示しました。
なので、いま私がやりたいのは、実演し、さらに深めていく人たちにそれを手渡し、発展させてもらうことです。
満十年が経過したいま、私は自分に「おつかれさま」といい、主宰をリタイアすることにしました。
といっても、現代朗読協会がなくなるわけではありません。
今後も関わりつづけるでしょう。
一個人としての演出家、ピアニスト、作家として。
もとめられればよろこんでサポートさせていただきます。
そしてもし可能なら、東京都心部を中心におこなわれていた現代朗読の活動が、より広範囲に、遠隔の地まで広まっていってくれることを願っています。
その際には身軽に、よろこんで、馳せ参じるつもりです。
みなさんからのお声がけを心待ちにしています。