2013年6月10日月曜日

『ストリーム』第四章1

  第四章 手乗り十姉妹



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 十姉妹《じゅうしまつ》の雛《ひな》が孵《かえ》ってちょうど一週間たった日、私は学校から帰るとさっそく雛を巣から取りあげた。
 初夏の梅雨前の時期だったと思う。寒さで雛がやられる心配がない季節だった。
  雛は全部で四匹いた。親鳥を巣から追いだし、まだ羽毛が生えそろっていない雛を一匹ずつ慎重につまみあげ、手元の「ふご」のなかへ移していった。
 四匹を全部ふごへと移しおえると、蓋を閉め、保温のためにそれを自分の勉強机の引き出しのなかにしまった。
 雛たちはおとなしく、ピイとも鳴かずにおとなしくしていた。親鳥はさすがにしばらく騒いでいた。雛がいなくなったせいで、バタバタと飛びまわり、しきりに警戒の声でさえずったり、巣を出たりはいったりした。が、それもほんの十分か二十分のことで、すぐにおとなしくなった。まるでそこにまだ雛がいるかのように番で巣にはいってしまった。
 翌日には親鳥たちは昨日まで雛を育てていた事実がなかったかのように、ごく普通に巣を出て餌をついばんだ。そのようすを見て「薄情だな」と思ったけれど、記憶も想像力もない小鳥のことだから当然だとも思った。彼らはただ、目の前の現実に対応して懸命に生きているだけなのだ、と。
 ふごに移した雛鳥の世話を、私は用意周到にはじめた。
 まずは餌やりだ。餌は粟をお湯でふやかし、冷ましてぬるくなったころを見計らって、耳かきで雛たちにあたえる。ふごの蓋をあけると、雛は親鳥が餌をやりにきたのだと勘違いするようで、パッと眼をさまして反応し、粟を盛った耳かきで嘴《くちばし》をつついてやると反射的に口を大きくあけた。そこへすかさず耳かきごと粟を突っこんでやる。
 最初はおっかなびっくりやっていたので、餌がこぼれおちたり、うまく口のなかにはいらなかったりしたが、すぐにコツが呑みこめてきた。思いきって喉の奥まで耳かきごと突っこんでやればいいのだとわかった。人間とちがって、喉の奥までものを突っこまれても、雛たちは苦痛は感じないらしかった。
 ちいさな粟粒《あわつぶ》といえども耳かきにはせいぜい五、六粒しか盛れなかったが、それをどんどん雛たちの口の奥へと突っこんでやるのだ。四匹いる雛にまんべんなく、えこひいきのないように餌をやる。
 首の付け根にある餌袋にどんどん粟粒がはいっていき、ぱんぱんにふくらんでくる。それが満杯になると、雛たちは自然に口をあけなくなる。そうなるまでどんどん給餌してやるのだ。