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共感的である、というのは、お互いに大切にしていることを尊重しあう、ということだ。
前述の例であれば、友だちは仕事において上司との信頼関係が大切だと思っていた。ところが、自分ではささいなことだと思っていることで上司から思いがけなくしかられて、信頼関係がくずれたように感じた。その結果、落ちこんでしまったのだ。
落ちこんでいる友だちを前にしてあなたがまずできるのは、この人はなにを大切にしているのだろうかと興味を持つことだ。同情もアドバイスも独断もいらない。相手から話を奪うこともしない。相手に興味を持って、相手が大切にしていることはなんだろうかと推測したり、質問したりするだけでいい。
たとえばこのように訊いてみる。
「あなたが落ちこんでいるのは、仕事で自分の能力が生かせなかったから?」
大切にしている「なにが」そこなわれて落ちこんでいるのか、そこのところを「推測」して訊いてみる。
ここで重要なのは、ただ「推測」してみるだけでいい、ということだ。必ずしも推測が当たる必要はない。当たらなくても、このように訊かれた相手は、
「ん? 自分はなんで落ちこんでいるんだろう」
と、自分の内側を見る。つまり、この質問は当たっていても当たっていなくても、自分の内側に目を向けさせるためのものなのだ。あなたはただ「無責任に」推測して質問するだけでいい。
もうひとつ重要なのは、友だちの態度に現れているのは「落ちこんでいる」という感情や状態であるが、その奥にある「大切にしていること」をいっしょに探すことが目的である、ということだ。現れている感情は「大切にしていること」をさししめすポインターの役割を果たしているだけで、それ自体は目的ではない。
自分の内側に目を向けた相手は、質問に「そうだ」とか「そうでない」と答えるだろう。いまの場合なら、
「ううん、自分の能力が生かせなかったから落ちこんでるんじゃないのよ。上司からしかられたことが悲しいの」
というような答えが返ってくる。そしたらあなたはそれにさらにつながって、質問をつづければいい。
「ささいなことで上司からしかられたことが悲しいの?」
「そう」
「上司に自分をもっと認めてもらいたいの?」
「それもあるし、もっと信頼してもらいたい。私も上司のことを信頼したい」
そしてあなたは、友だちがどんなことを大切にしているのか、知ることができる。
実際にはこのようにスムーズにはいかないかもしれないけれど、あなたはただ相手に自分の内側を見る質問をつづけるだけであり、相手が大切にしていることに興味を持ちつづけるだけなのだ。これが共感的にコミュニケーションをするための基本姿勢となる。
自分がなにを大切にしているかわかったとき、相手はすっきりすると同時に、自分の大切にしているもののことをあなたにもわかってもらえたと感じる。ここに「共感関係」が生まれる。人と人のつながりにある種の「質」が生まれるといってもいい。
相手がなにを大切にしているのかわかれば、お互いにそれを尊重しあうという形で、一種の理解とつながりが生まれ、人間の関係性がよりよく変化するのだ。
整理しておこう。
共感的コミュニケーションのコツ、みっつ。
一 相手が自分の内側を見るような質問をする。
二 無責任に訊く(当てようと思わなくてよい)。
三 相手の大切にしていることに興味を持ちつづける。