2010年大晦日(といっても昨日だけど)は、タイトルの演奏会をUstreamで聴きながら、一日すごした。
東京文化会館でおこなわれた演奏会は、午後1時から始まって、終わったのがNHKの紅白歌合戦の終了とほぼおなじの11時45分だった。
ベートーベンの交響曲はご存知のとおり、9番まである。それを全曲、一日で演奏しようという、壮大なイベントだ。
楽団は岩城宏之記念オーケストラ。やけに男が多い楽団だ。サイトウキネンは半分くらい女性なのに。
ま、そんなことはよろしい。
演奏は1番→2番、休憩、4番→3番、休憩、6番→5番、8番→7番、休憩、9番、という順番でおこなわれた。
なんとなく静と動が対になっているようだが、おおむね作られた順番といっていい。
こうやって順番に聴いていくというのは、そのまま、ベートーベンの作曲技法の変遷をたどるといっていい。
もちろんベートーベンは初期ロマン派の巨匠だ。最初の1番からすでに完成されている。練習も助走もない。いきなりトップスピードで走りだしている。
とはいえ、順番に聴いていくと、ひとりの人間がこつこつと創作に向かい合って積み上げていく過程と苦悩が見えて興味深い。9番では作曲技法などという言葉それ自体がどうでもいいような、神懸かり的な曲が完成した。長調とか短調とか、和声とかいった世界を超越し、ほとんどモードであり、同時にバロックであるような複雑な音楽が立ち現れた。
ひとりの作曲家の交響曲を通して聴くというのは、旅をする気分に近い。そんなものを居ながらにしてネットで聴けるなんて、おもしろい時代になったものだ。
ネット中継では高精細の動画と音声が配信された。たまに中断することがあったが、4000人を超える人間が同時に接続していた。
高精細のために、マゼールの表情から楽団員の動きまで、きれいに見ることができた。
80歳のマゼールは軽々と、しかし集中を切らすことなく、すばらしい指揮を完遂させた。全曲暗譜による、スコアを開かない指揮だ。9曲の交響曲をすべて、各パートにわたるまで暗譜するというのは、並大抵のことではない。
ここにもまた、ひとりの人間がこつこつと努力してきた結果、到達しうる頂点の情景を見ることができた。
いい年末となった。
いろいろな人に感謝したい。