ついさきほど帰ってきたばかりだ。
今夜(もう日は変わって昨夜)は横浜・白楽のライブハウス〈ビッチェズ・ブリュー〉で、現代朗読の山田みぞれとふたりでライブをやってきた。
いやー、楽しかったな。
〈ビッチェズ・ブリュー〉というのはマイルス・デイビスのアルバムのタイトルで、次々と変化・進化しつづけたマイルスの音楽のなかでもとくに物議をかもした一枚。
私は大好きな一枚で、「カインド・オブ・ブルー」とならんでもっとも好きな音楽のひとつかもしれない。
ここでのライブの話はみぞれちゃんが持ってきてくれた。
みぞれちゃんがMASH(いつもお世話になっている森順治さんがメンバーのひとり)のライブでここをおとずれたとき、朗読でちょっと参加したのだが、そのとき、〈ビッチェズ・ブリュー〉(以下BBと略)のオーナーの杉田誠一さんがおもしろがってくれて、みぞれちゃんにライブをやらない? と持ちかけてくれたのだ。
で、今夜やることになり、私もピアノ演奏でいっしょに参加することになった。
日中の暑さが全然おさまらないなか、帰宅ラッシュを避けて東横線に早めに乗り、午後6時ごろに白楽に到着。
この駅は初めて降りた。
駅前からまっすぐのびる六角橋商店街という、けっこう大きな商店街がある。
ここを少し歩きはじめて、私はすぐに奇妙な感覚にとらえられた。
見たことのある感じ、感じたことのある空気。
なんとなく、港町を歩いているような気がする。
しかし、私がおなじように感じていた港町はこんなににぎわっていなかった。
でも、おなじ感覚が私をつつんだ。
感覚神経がギューっと収縮するような気がして(もちろん気のせいだ)、なぜかドキドキする。
なにかある、この街には、と思った。
少し坂を降りると、右手の路地の奥になにか見えた。
おもしろいものがあれば写真を撮ろうと思って踏みこんだら、あきらかに戦後の闇市の名残のアーケード街がそのまま残っていて、メインの通りと並行して通っている。
仲見世通りというらしい。
ライブにお客さんで来てくれる横浜共感カフェの主催者・須美子さんも、すでについてこの通りに来ているというので、会えるかもと思ってぶらぶら歩いていった。
水曜日で休みの店が多く、残念ながら須美子さんにもここでは会えなかったが、独特の雰囲気の街にやられてしまった。
ちょっと住んでみたいと思ったほどだ。
午後7時ちょうど、六角橋商店街の通りをすこしはいったところにある〈ビッチェズ・ブリュー〉に行く。
すでにみぞれちゃんは来ていた。
そして初にお目にかかる杉田さんにご挨拶、歓迎していただいた。
マイクのセッティングをして、ちょっとピアノに触ってみる。
アップライトだが、じつによく鳴るピアノで、弾きやすい。
調律もきちんとされていて、ありがたい。
準備しながら、杉田さんと話をする。
日本のジャズ史を生きてこられた当事者のような方で、一方こちらは電波やレコードを通じてリスナーではあったが、当事者とはほど遠い。
しかも、福井の田舎に住んでいて、東京に出てきたのは最近なので、ミュージシャンたちとのつながりもほとんどない。
つまり無名のピアニストだ。
こういう者が行くと、ときに冷たい目で見られることがあるのだが、杉田さんはその経歴にも関わらず胸襟を開いておもしろい話を次々としてくれる。
そして、ライブの後には、私たちの音を先入観なく気にいってくれて、「毎月やろう」とまでいっていただいた。
こんなにうれしいことはない。
それはともかく、杉田さんには申し訳ないことにお客さんをあまり呼べず、横浜共感カフェ主催の須美子さんと常連参加の中村さん、ゼミ生のてんちゃんが来てくれただけだった。
来てくれてほんとうにありがたかったと同時に、お客さんが少ないことにひとことも触れずいっしょに楽しんでくれた杉田さんには、心から感謝したい。
この空間をなんとしてもいっぱいにしてみたい、と思っている。
きっと楽しく盛り上がり、また予期しない楽しいことがたくさん起こるような気がするのだ。
店のオーディオ機材はすばらしい。
マッキントッシュの真空管モノラルアンプをふたつ並べてステレオに。
それにアルテックのスピーカーをつないでいる。
私の希望で、CDではなく、アナログのレコード盤をかけてもらった。
ジョン・コルトレーンの日本でのライブ演奏。
いや、すごいすごい。
私の身体から当時の新宿厚生年金会館のホールにタイムスリップする。
須美子さん、中村さん、てんちゃんが来て、ライブの準備はこちらは整っていたが、杉田さんの話がおもしろくて始められない(笑)。
とてもここには書けないような音楽業界の裏話が次から次へと飛びだしてきて、抱腹絶倒。
貴重な話もたくさん聞けた。
ところで山田みぞれだが、ちょうど1年ちょっと前くらいだろうか、現代朗読の読み手として十分な実力がそなわりつつあるので、どんどんライブをやるべし、とアドバイスした記憶がある。
それを受けてかどうかは知らないが、いろいろなところへ出かけては音楽やダンスの人たちと積極的につながったり、オープンマイクに出たりしはじめた。
彼女が外のフィールドに出ておもしろがられることは確信していたが、実際にそのようになったことはうれしいかぎりだ。
彼女にかぎらず、現代朗読の読み手には外で通用する表現者が続々と育っている。
ちょっとグダグダした感じにはなったが(笑)、いちおう2ステージやって、終了。
杉田さんは「おもしろいから毎月やろう」といってくれて、さっそく来月の予定が決まった。
来月は8月9日(土)の夜という、絶好のポジションを確保させてもらった。
楽しみだ。
今夜のライブの模様は、一部をYouTubeで配信できる予定。
しばしお待ちを。