2011年10月28日金曜日

だれでも簡単に不幸になれる方法

 だれでも簡単に不幸になれる方法を教えてあげましょう。
 それは「他人と自分を比較すること」です。
 私のところにはたくさんの人が朗読の勉強にやってきますが、最初はみなさんたいてい不幸です。なぜなら「自分は人より朗読が下手」と思っているから。人と比較して、下手と思いこんでいるんですね。たいてい「自分なんか」と思っています。
 その上手/下手という基準は、世間が作りあげた外部評価であり、おおむね技術的な面しか見ていません。しかし、朗読もそうですが、表現には「技術的な側面」のほかに「オリジナリティ」という、より重要な側面もあることを忘れてはいけません。
 だれもが他には代え難い固有の身体と精神を持っています。それは「差異」こそあれ、比較して優劣をつけられるものではありません。このオリジナリティを別のオリジナリティ、つまり他人に伝えることこそ、表現の本質です。それなのに、往々にして人々は、自分と他人を比較して、優劣をつけようとします。自分のほうが他の人より下手だと思いこんで、勝手に不幸になっています。
 そうではなくて、技術的には下手だけど、自分にしかないオリジナリティを表現する喜びを持てたとき、人は幸福になります。自分を伝える喜びのなかで幸せを感じます。そして技術をさらに磨き、表現のクオリティをあげていく努力もまた、喜びをもって取り組めるようになります。
 自分の幸せは、人と比較することではなく、自分のなかに見つけるしかありません。自分が自分であり、いまここにいる自分のありようが生き生きとしていること。このことにしか幸福はありません。金持ちになるとか、なにか目的をとげるとか、人より上手になるとか、そういうことのなかには幸福はありません。いまここにある人生の課程そのものを楽しめること、それが幸福な生き方だと思います。