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2019年9月18日水曜日

人々の好意や医師の職業倫理との闘い(末期ガンをサーフする(12))

9月18日、水曜日。午前10時。
12回めの放射線治療のために東京都立多摩総合医療センターに行く。

昨日まで絶不調で、病院までの1・5キロメートルを歩ける気がしなかったけれど、今日は涼しさもあって歩こうと思った。
途中、200メートルほどの〈たまらん坂〉という、名前のわりにはたいしたことない坂があるんだけど、その登り坂は体調をはかるのにちょうどいい。

ちょっとだるさが残っている。
こういうとき、すこし無理してがんばったほうが、筋トレのように身体は体力を回復しようとするのか、逆にがんばらないほうが体調回復が順調なのか、どっちなんだろう。
ともあれ、今日はちょっとがんばってみた。

  *

私の知り合いで乳ガンのサバイバーの女性がいる。
彼女はかなり若いころに乳ガンをやり、
「絶対に生きのびる。私には使命がある」
という強い意志のもと、信頼できる医者をさがし、積極的に治療を受けて乳ガンを克服したという経験がある。

私が食道ガンであることを知った彼女から、彼女が信頼する医師に診てもらうことを強くすすめられた。
その医師はがん研出身で、現在は開業医だが、いまだにがん研にはコネクションを持っていて、なにかと便宜をはかってくれるというのだ。
私は気が進まなかったが、彼女の強力なプッシュと「絶対に生きのびてね」という願いを受けて、紹介された医院に行ってみることにした。

6月29日で、食道ガンが見つかって1か月以上がすでにたっていた。
多摩センターの検査資料を持って、出かけていった。

いろいろいわれたのだが、要約すると、
「一刻も早く治療をはじめないと取り返しがつきませんよ」
ということだった。
そもそも私は標準治療を受けることに積極的でなかったし、なんとなく脅されているような気がして尻込みしてしまった。

するとその医師は、
「治したいの、治したくないの? あなたが熱意をもって頼まないと医者も本気になれないよ」
という。
私はますます嫌気がさしていたが、本来の弱気が出て、つい、
「お願いします」
と頭をさげてしまった。

いまだったら決してそうしなかっただろう。
しかし、そのときはまだ迷いがあった。
自分がなにをもっとも大事にしているのか、確たる視野ができていなかった。
その医師も、いいかたはともかく、私を「生存させる」という医師としての職業倫理にもとづいて懸命に提案してくれていたのには違いないのだ。

がん研有明病院には翌週連絡がつき、優先的に診察・検査の予約を入れることができた。

ガンを生きるというのは、多くの人の好意があり、また医師や病院側の職業倫理があり、自分の意志とは関係のないところでものごとが動きはじめてしまうことがあるということとどう向きあうか、場合によってはそれらとどう闘うか、ということも含まれてくるということだ。
場合によっては、自分の病との闘いよりもそちらの闘いのほうがエネルギーを使い、消耗させられてしまうことがある。

もちろん、
「すべて先生にお任せします。よろしくお願いします!」
と治療を医師や病院に丸投げしてしまうというなら、話は別だが。