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2013年3月3日日曜日

呼吸法の生理的作用

photo credit: AlicePopkorn via photopincc

 音読療法の呼吸法にはさまざまな効果が期待できる。
 呼吸という身体運動には、たくさんの骨格と筋肉、神経が連動的に関わっている。
 呼吸は肺の体積が縮小したり増大することによって酸素を取りこみ、二酸化炭素を排出するのだが(ガス交換の働き)、肺そのものは筋肉ではなく、みずから収縮・膨張できないいわばたんなる袋である。その袋状の肺を取り囲んでいる胸郭と横隔膜が動くことで、呼吸がおこなわれる。呼吸には筋肉の運動がともなっており、さまざまな筋肉(呼吸筋群)が連動的に収縮したり弛緩したりする。通常、これらの運動はほぼ無意識におこなわれているのだが、これを意識的におこなうことで一種の筋肉トレーニングの効果を生んだり、身体全体の血行を改善したり、健康法としての効果が期待できるようになる。
 また、呼吸法によって不随意神経系である自律神経に意識的にアクセスし、自律神経がつかさどっているさまざまな生理現象を調整することに役立てることができる。

 呼吸は「吸う」ことと「吐く」ことがあるが(ヨガや瞑想法では「止める」もある)、それぞれ使う筋肉が異なっている。
 吸う呼吸では、横隔膜、外肋間筋、胸鎖乳突筋、斜角筋群などのほか、大胸筋、小胸筋、広背筋、僧帽筋、菱形筋なども連動して働いている。
 吐く呼吸では、内肋間筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋などのほか、腹直筋、骨盤底筋群なども連動して働いている。
 このように多くの筋肉群が連動して働いていることを意識しながら呼吸をおこなうことで、これらの筋肉を鍛えたり整えたりして心身のリフレッシュおよび健康促進をはかることができる。

 呼吸法がおよぼす神経作用については古くからよく知られている。
 気持ちが落ち着かないときに深呼吸をするとなんとなく落ち着くのはだれもが経験のあることだろう。座禅や瞑想、ヨガ、古武術などにおいても呼吸はとくに重視されている。古来からさまざまな呼吸法が考案され、経験的にその効果が認められているが、音読療法ではさまざまな呼吸法のエッセンスを抜きだし、だれでも利用できるように整備してある。いわば「いいとこ取り」の呼吸法である。
 呼吸がおよぼす神経作用のなかでもっとも注目されているのが、自律神経におよぼす働きだろう。
 自律神経は不随意神経系と呼ばれていることからわかるように、自分で意図的に操作できない神経系である。たとえば自律神経がつかさどっている体温調節や心臓脈拍の変動などは、通常、意図的におこなうことはできない。「体温をあげろ」とか「心拍数をさげろ」などと自分の身体にお願いしても、普通はそのとおりならない。
 自律神経は生命維持やさまざまな体調の調整をつかさどっている重要な神経系だが、これがなんらかの理由で不調をきたすといろいろな不都合が生じる。自律神経が不調をきたすと、睡眠障害、動悸、息切れ、便秘、下痢など、神経系、循環器系、消化器系、免疫系などの不調につながる。
 自律神経は「活動・消耗」の神経である交感神経と「休息・回復」の神経である副交感神経が対になっているが、現代人は交感神経ばかり昂進させる生活をしいられていることが多く、それが原因で自律神経に失調をきたしている人が多くなっている。ひどい場合には自律神経失調症という病状におちいる。これを正常にもどすためには副交感神経もしっかりと働かせるようにこころがける必要がある。
 しかし、これらは不随意神経系であり、自分の意志では、直接、自在にコントロールできない。そこで、呼吸法が役に立つことになる。呼吸法は、不随意神経系である自律神経にアクセスする唯一の方法なのだ。
 通常、交感神経が昂進しているときには(活動・消耗期の状態)、呼吸は比較的浅く速い状態になっている。副交感神経が昂進しているときには(休息・回復期の状態)、呼吸は比較的深くゆっくりした状態になっている。このことを逆に利用し、呼吸を意識的に深くゆっくりすることで、副交感神経の昂進をうながすのだ。このメカニズムについては、経験的にも実験的にもすでに実証されていて、臨床の場でも多く利用されるようになってきている。
 このように、呼吸法はだれでもできる非常に簡単な健康法といってもいいだろう。そのことを理解した上で、音読療法士は呼吸法をおこなうようにする。