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2012年2月1日水曜日

ストレスマネージメントのためのマインドフルネスと呼吸・音読

photo credit: tricky ™ via photopin cc

現代社会はストレスに満ちており、多くの人が強いストレスにさらされながら日々をすごしていることについては、だれもが異論のないところだろう。

街を歩く人、電車に乗っている人、どの人のようすを見ても、「心ここにあらず」といった表情でなにやら考えごとをしていたり、ケータイをのぞきこんでいたり、あるいは眠っていたりする。「マインドフル」で「自分がいまここにいること」に気づいて存在している人を見つけるのはとても難しい。

「マインドフル」とは、自分の意識と身体の全部を使って、自分がいまここにいて、自分自身のありように気づき、自分を取り巻く世界のことを連続的に感じつづけている状態のことをいう。

そうでない状態のことを仮に「マインドレス」とすると、現代社会はマインドレスな人々であふれている、ということになる。


「マインドレス」とはどういう状態なのか。

「心ここにあらず」というように、心が「いまここ」になく、過去や未来や別の場所に向いている状態のことだ。

自分を観察してみればわかるが、私たちはたいてい「いまここ」にいながらにして、過去に起こったできごとについて思い返しては後悔したり、喜んだり悲しんだりしている。あるいはまだ起こってもいないことについてくよくよと思い悩んでいる。

昨日、上司に叱責された言葉、友人からもらったメールの気になる内容、楽しかった思い出、そういったものを繰り返し思い出しては、悔しがったり悲しんだりにやにやしたりしている。

大地震が来るんじゃないかと思って不安にさいなまれる、友だちに陰で悪口を言われているんじゃないかと疑心暗鬼になる、宝くじが当たったときのことを想像してありもしない空想にふける。

アメリカに留学している娘が犯罪に巻きこまれていないか心配でしかたがない、離れて暮らしている年老いた両親がいつ病気になるかと思うと夜も寝られない。

いずれも、このときの心は「いま」でも「ここ」でもないところにある。

それを、「いま」「ここ」に取りもどすことで怖れや不安や、不必要な悲しみや喜びから自分を取りもどし、「いまここ」の自分のありかたのクォリティを高めよう、「いまここ」の自分の行為や存在感を充実させよう、というのが「マインドフルネス」の目的である。


マインドフルネスを実現するためにさまざまなアプローチがあるが、だれもが簡単にできてもっとも有効だと私が考えている方法が、呼吸と声を利用する方法だ。

これは大昔からおこなわれている。

たとえばヨガ。

ヨガの瞑想では、呼吸の観察をおこなう。鼻腔を通る呼気や吸気の微細な観察によって、現在の自分の身体への意識を持つ。

ほかにも座禅や武術などでも、呼吸の観察を大切にすることが多い。

呼吸は人の身体のなかで一番意識しやすい「動いている部分」である。もちろん心臓などの内蔵も動いているが、もっとも観察しやすいのは呼吸の動きだ。「動いている」すなわちそれは「生きている」ことであり、「いまここ」にあることの意識へとつながりやすい。

さらに呼吸から「声」を出していくことで、「動き」のほかに「音」を使って自分の身体の存在を意識できるし、また音は時間とともに進む物理現象なので「いまここ」をさらに意識しやすくなる。


このように、過去や未来やここではないどこかから、意識を「いまここ」に連れもどすことで、さまざまな思考や執着や不安の「反芻思考」や「反芻イメージ」を断ち切ることができる。思考やイメージをグルグルと頭のなかで繰り返してしまう「反芻」が始まるとき、ストレスは増大し、増幅されて、自分のコントロールを失っていく。人の心はその防衛反応として、ストレスの要因となるできごとを心の奥底にしまいこもう(忘れよう)とする。それが心的外傷(トラウマ)となって残るのだ。

反芻思考が始まったとき、それを意識的に断ち切ってやりマインドフルネスを心がけることで、ストレスがトラウマへと沈殿してしまうのを防ぐことができる。

さらにマインドフルネスによってパフォーマンスのクォリティがあがった心と身体は、ストレスに立ち向かい、やりすごすことができるようになる。つまり、ストレスマネージメントの技術(スキル)が上がり、ストレスフルな社会を泳ぎきっていくための能力がつく、ということが期待できる。

呼吸や発声、音読といったごくシンプルな身体行為が、心と身体のありように大きな影響を及ぼすことができるということを、人は大昔からよく知っていた。現代人の私たちはただそれをもう一度学びなおすのだ。


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http://juicylab.blogspot.com/2012/01/2.html