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2015年11月14日土曜日

奇跡のピアノ!(アズワン探訪記その8)

SCS(鈴鹿カルチャーステーション)のエントランスホールにヤマハのグランドピアノが一台、布カバーをかけて置いてあった。
聞けば、時々ここで演奏会をやるとのことで、先日もジャズのコンサートをやったそうだ。

ん? この脚はなんだ?
よく見ると、ピアノの脚がライオン脚(というのか?)になっている。
ほら、古いバスタブの脚みたいなやつね。
これはひょっとして古いピアノなのか?

蓋を開いて、一音、二音、そっと鳴らしてみた。
…………!
聞いたことのない音がする。
いま製造されているピアノは、メーカーによってさまざまな特色があるが、ヤマハのグランドは華やかで、しかし重たくないような、ちょっと着飾った美人のような印象のものが多い。
これはそういう音ではなく、太くて柔らかい、しかししっかりと芯を含んだ音色がする。
育ちのいい、しかしそのことをしっかりと自覚している落ち着きのある貴婦人のような感じ。

来歴を聞くが、これがだれも知らないのだ。
そのことがまたびっくりなのだが、カルチャースクールの坂井さんなら知ってるかもしれない、と聞いた。

あとで坂井さんに聞いたのだが、このピアノはあるところから寄贈されたものだそうだ。
その「あるところ」には何台かのピアノがあり、「これならあげてもいいかな」といってもらったものだそうだ。
古くて使いものにならないやっかいなものを押しつけられたかも、と一瞬思ったそうだが、手入れして調律してみるととてもよい状態によみがえった。

失礼ながら、アズワンのみなさんはこのピアノの価値をあまりおわかりでないようだが、私は心底びっくりしたのだ。
最後の夜にこのピアノを使って「音楽瞑想」をごく短くやらせてもらったのだが、それはそれはすばらしい体験だった。

製造番号を見れば、このピアノが昭和10年ごろの、ヤマハの最初期の作品であることがわかる。
日中は戦争をはじめており、太平洋でも戦火が近づいてくる緊迫した社会情勢のただなか、浜松の工場の片隅で職人さんたちがこつこつと丁寧に作りあげたのだろうと想像できる。
その職人さんたちもいまはだれも生きておられないだろう。
しかし、こうやってピアノが美しく残り、麗美な響きを奏でている。

アズワンのみなさんに私からのお願い。
どうぞあのピアノを大事にしてあげてください、そして活用してください。
そしてまた私にあのピアノを弾かせてくださいね。
(つづく)