ページ

2013年4月7日日曜日

音読療法における共感的コミュニケーションの位置づけ

photo credit: Auntie P via photopincc

音読療法において共感的コミュニケーションは三つの柱のひとつとなっていて、非常に重要なスキルである。
コミュニケーション法をセラピースキルとして取りいれている民間療法はあまりなく、音読療法の大きな特徴のひとつとなっている。

音読療法協会は学校や老人ホーム、東北の被災地をふくむ地域の集まりなどで音読ワーク・音読ケア活動をおこなっている。
共感的コミュニケーションはこれらの活動のなかで重要な役割をはたしてきた。たとえばこれは最新の精神医学でいうところの「認知行動療法」にも通じるすぐれた方法でもある。
音読療法ではこれにさらにマインドフルネスのスキルを加えて、すぐれたセルフメンタルケアの方法を体系化している。

共感的コミュニケーションを音読療法の重要スキルと位置づけるにあたっては、つぎの二つのねらいがある。


ひとつめのねらいは、不安やいらいら、悲しみといった自分の感情を客観的に観察し、それらがどこからやってくるものなのかを認知することで、自然で自発的な行動をうながすための認知行動療法とほぼおなじプロセスを、共感的コミュニケーションで実践できる、というものだ。
後述するが、共感的コミュニケーションは、

 一、事実
 二、感情
 三、価値

という客観的認知のプロセスを持っている。
このプロセスを実践することで、だれもが自分自身の価値観(大切にしていることや必要なこと、ニーズ)につながり、それを守ったり実現するための自発的な行動に移ることができる。

こころの病にかかりかけると、もやもやした無気力感にとじこめられ身体が動かなくなってしまうことがあるが、共感的コミュニケーションのプロセスをみずから実践することでそこから抜けだすことができる。
あるいは、音読療法士が共感的コミュニケーションをもちいてセッションすることで、クライアントが自分の感情を観察し、価値観に気づいていく手助けをすることもできる。

まずは音読療法士が共感的コミュニケーションを身につけ、自分自身のこころの健康を保つために使いこなせるようにすること。
つぎに、クライアントの認知を手助けできるようになること。
最後にクライアント自身も共感的コミュニケーションをもちいて自分のメンタルケアをおこなったり、まわりの人間との関係性を向上させることに役立てたりできるようになること。
この三つの段階を、認知行動療法としての共感的コミュニケーションの学びとしてかんがえておくとよい。


ふたつめのねらいは、ファシリテーション技術として共感的コミュニケーションを用いる方法だ。
共感的コミュニケーションは人と人の関係にある種の質を作りだす方法である。人はそれぞれ、立場やシチュエーションなどその時々で「自分が大切にしていること」を持っている。それが動機となって行動したり、感情が動いたりする。自分が大切にしていることと、相手が大切にしていることを同時に尊重することで、つながりの質を作る方法なのだ。

この方法は相手がひとりでも有効だが、相手が複数でも同様に用いることができる。
音読療法はグループセッションをおこなう機会が多いが、共感的コミュニケーションを用いるとセッションを円滑に進めることができるし、またクライアントたちが「自分が尊重された」という気持ちをもってセッションを終えることができる。

たとえば、だれかひとり、しつこくクレームをつけてくる人がいたとする。
音読療法で使うテキストが「気にいらない」「難しすぎる」「読みにくい」「字が小さすぎる」「嫌いな作家の文章だ」などといったことで、これは実際によくあることだ。
そういうとき、その人のことを適当にあしらって相手にしないようにするとどうなるだろうか。
その人もますます気分が悪くなるだろうし、その場にいる全員もその人のことが気になってセッションに集中できなくなるかもしれない。

そういうとき、共感的コミュニケーションをもちいて、その人がいったいなにを大切にしているからそのようなクレームをつけているのか、どういう価値観をもって感情を害しているのか、そのことをたずね、そこにつながっていくようにする。
その人にうまく共感できれば、その人は自分が大事にされた、尊重されたと感じることができるし、それを見ていたほかの参加者たちも、ひとりがきちんと尊重されるのを見て自分もまた尊重されているのだと思える。

進行役が全員の価値観を尊重していますよ、という態度をつらぬくことで、参加者全員に安心感がうまれ、また信頼も生まれることが多い。
そういう関係性のなかでは、ものごとの進行がいきいきとしたものになる。

もちろん、相手がひとりより、ふたり、ふたり以上大勢になればなるほど、共感的コミュニケーションの高いスキルが要求されることはいうまでもない。