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2012年3月24日土曜日

赤坂でのミュージックメディテーションについてのレポート

もう寝る時間だけれど、どうしても書いておきたいことがあって、書こうと思う。乱文はご理解いただければ幸い。
2004年かその翌年くらいのことだと思う。私は世田谷・豪徳寺の酒屋の地下室に住んでいた。もちろんお金がなかったからそんな場所に住んでいたのだ。考えてみれば、いまも羽根木の家の玄関脇の部屋に間借りしているのとそう事情は変わりないけれど。
それはどうでもいい。
地下室は結構広い空間だったので、そこでライブをしばしばやっていた。自分の住まいでライブをやるなんて経験は、あまり多くの人はできないのではないかと思う。貴重な経験だった。
ライブのシリーズのひとつに「ディープリスニング」というものがあった。薄暗い地下空間を利用して、デジタルピアノではあるけれど音の響きをじっくりと味わってもらおうという企画だった。それに時々ゲストを呼んでいた。

あるとき、たまたま知り合ったサックス奏者のウォルフィーをゲストに呼んだ。サックスだけでなく、パーカッションやギター、はてはボーカルまでこなすマルチ奏者だった。
セッティングをしているとき、ふと彼に「照明はどうする?」と尋ねた。すると彼は「どうせ見えないから、なんだっていいよ」と答えた。
そう、彼は全盲の人だった。
そのとき、ふと私は、それならいっそ、真っ暗闇にしてなにも見えない状態でライブをやったらどうだろうと思ったのだ。全部は無理でも、一曲くらいはやれるのではないかと思った。そして実際にやってみた。

真っ暗闇のなかでのピアノ演奏は、思ったよりやれた。というより、視覚に頼らない分、音に集中できたような気がした。ウォルフィーと純粋に音だけで会話できたと思った。
終わって照明をつけてもらったら、ぼろぼろ泣いている人がいてびっくりした。
以来、意識的にディープリスニングをおこなうようになった。

その後、地下スタジオを手放し、羽根木の古民家に移った。その環境では暗闇のライブは難しいので、しばらくできなかった。
赤坂のクラシック専門ライブハウス〈カーサクラシカ〉という場所を偶然知り、下見をしたら、スタッフも感じがよく、全暗転に近い環境であることがわかった。ひさしぶりにディープリスニング(ミュージックメディテーション)をやってみようと思った。

プリンター出力ではあるが、ちらしをたくさん刷って配ったりして、準備をした。が、アピールが難しく、なかなかお客さんが集まらない。げろきょのゼミ生も忙しいらしい。ランチ付きのイベントということで、料理人・マリコに腕をふるった料理を用意してもらったのだが、集客はゼロに近かった。
かろうじて羽根木の家の門の外に出ているチラシを見てくれた人がひとり、それからゼミ生がふたり、無理に頼んだゼミ生がひとり、ゼミ生の中三の娘さんがひとり(春休み中ということだったがうれしかった)、当日ゼミがあると間違えて羽根木にやってきたゼミ生を拉致してひとり。
ともあれ、来てくれた人があることには感謝だ。私はただマインドフルにその人たちに向かってお話と演奏を専心にするのみ。

マリコのおいしいランチをいただきながら、おもに初めてお目にかかるたったおひとりの方と、ゼミ生(とその娘)のニーズを聞いた。
そのあと、野々宮の宮沢賢治「マグノリアの木」の朗読。
そして、私の演奏。テーマは春の三部即興演奏。「春の雨」「春の夜」「春の森」。
終わってからふたたびおなじ「マグノリアの木」の朗読。
そのあと、みなさんとトークと、現代芸術の鑑賞法についての私の考えを述べさせてもらった。
最後には野々宮と私による朗読と音楽のセッション。夏目漱石の『夢十夜』の「第一夜」をハッシとやらせてもらった。

集客には失敗したが、私はとても楽しく、学びの多いイベントとなった。
残念ながら、赤字でもこのイベントを続けていく体力は私にはないので、これが最初で最後のイベントとなるだろう。

追伸:いま確認してみたら、記録音声は入力レベルが高すぎて割れてしまっていた。公開できるほどのクオリティではないことが判明。それでもよければ、興味がある方は羽根木の家までおいでいただければお聞かせしますので、申し出てください。