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2011年6月14日火曜日

木洩れ日の家で(ポーランド映画)

名古屋で榊原忠美氏と昼ご飯を食べたあと、夜のリハーサルまで時間があったので、榊原氏は私を名演小劇場に放りこんで自分の仕事に行った。
時々こういうパターンがあって、そのたびに自分ではまず観ない映画を観ることができるので、ありがたい。そして榊原氏の推薦する映画と食べ物屋でハズレは一度もない。

名演小劇場でやっていたのは、「木洩れ日の家で」というポーランド映画だった。
ワルシャワの森のなかの家が舞台。
モノクロ。
白黒映画なんて、どこか「アート」とか「文芸」を意識しているみたいであざとい、という印象があるが、まったくそんなことはなかった。

主演はダヌタ・シャフラルスカというポーランドの大女優とのこと。私はまったく知らなかったが。役の老女は91歳という設定だったが、ダヌタもまた撮影当時91歳だったらしい。
当然、女優とはいえ、「しわくちゃ婆さん」である。その「皺」が、モノクロ映像によってくっきりと強調されている。
しかし、それが美しいのだ。極端ないいかたをすれば、ダヌタは皺一本の動きで演技する。

犬が出てくる。
ボーダーコリーだと思うが、これがまた名演。100分くらいの長さの映画の画面の、かなりの分数が、老女と犬の顔のアップで占められている。
人生の最終ステージを迎えた老女。森のなかの木造邸宅に住んでいる。邸宅はすでに相当なボロだが、彼女はこの家を愛してやまない。たまに訪ねてくる息子夫婦や孫娘には、うとまれている。
気位が高いこともある。冒頭のシーンは、彼女が医者に診察を受けに行くところだが、女医のものいいが気にいらないと、診察を受けないままに帰ってきてしまう。

邸宅の隣には、ヤクザっぽい成金が出入りする豪邸があり、さらには低階級の子どもたちが出入りする若い夫婦がやっている音楽クラブがある。これらがからまりあいながら、ストーリーは静かに進んでいく。
静かに、しかし確実に老女の立場は追いこまれていく。しかし、最後は少し観客サービスっぽい展開があり、救いがあり、そして彼女の人生にも幕が(いささか都合よく)下ろされる。
音楽にも少しだけ不満。
最後はご都合主義っぽいが、とてもいい映画だった。老女がラストに近く、まるで子どものようにひとりでブランコに乗るシーンがあるのだが、不覚にも涙してしまった。
ブランコもそうだが、いろいろなものが注意深くシーンのあちこちに配置されていて、映画に奥行きを与えている。

モノクロなのに光と色彩にあふれている映画だ。
辛辣で、軽妙で、悲しくて、楽しくて、皮肉たっぷりで、かわいくて、そして深遠な映画。
ラストのクレーンアップ映像で、ワルシャワの森の俯瞰映像が出てくるが、たぶんアカシアと思われる木々の真っ白な花が、それはそれは美しい。