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2010年8月19日木曜日

プール

生理学に「無感温度」という言葉がある。ヒトが熱さも冷たさも感じない温度のことで、摂氏33度とわかっている。夏場の温水プールはこの温度に近い水温ではないかと思われる。
ヒトの皮膚感覚は、15度以下では痛覚神経が働く。15度を超えると冷覚神経が働きはじめる。
25度以上になると冷覚神経の働きが弱まり、温覚神経が刺激される。33度前後では冷覚神経と温覚神経がおなじくらいの働きになり、冷たさも暖かさも感じない無感温度となる。
ちなみに、45度以上になると冷覚神経と痛覚神経が働く。
最近、温泉でも、無感温度のお湯があるらしい。まだネットで調べてもほとんど出てこないが、この無感温度の水にはいると、副交感神経が働き、気持ちが落ち着いたり、癒し効果があるらしい。これとおなじ作用が、温水プールにもあるのではないか。だから私はプールに行くといい気分になって帰ってこれるのではないか。

もともと水遊びが好きだったことは、昨日の「水」の連続ツイートで書いた。
学校のプールは屋外プールで、あまりいい環境とはいえなかったが、それでも夏場は熱心に泳いだ。大学生になった初めての夏、出身高校のプールの監視員のアルバイトがあるので帰ってこいといわれた。
夏休みの一か月間、プールの監視員のアルバイトをやった。監視員はひとりだけで、気ままにやれたので楽しかった。生徒たちにプールを開放する午後、時間の少し前に行ってプールの入口の鍵をあけ、消毒用の塩素薬をいくつか放りこむ。
生徒たちがやってきたら、のんびり監視する。といっても、やることはほとんどない。後輩たちといっしょに遊んだりするだけだ。時間が来たら、生徒を追い出し、水温や浄化槽の具合を確認して日誌をつけ、それを職員室まで持っていく。雨の日などはだれも来ず、ひとり雨の波紋が広がる水面に眼から上だけ出して瞑想にふけったりした。

その後、大人になってからはしばらくプールから遠ざかっていた。京都でバンドマンをやったり、福井にもどってきてピアノの先生をやったりしていたが、そのうち小説が売れ、職業作家としての生活になった。ほとんど一日中机に座って原稿を書く生活だ。さすがに運動不足に危機感を覚えた。
そこで、通販でトレーニングマシンを買った。ボート漕ぎみたいな動作や、いろいろな筋トレ動作ができる組み立て式のマシンだ。
それが宅配便で届いた。かなり重くて、玄関にドカンと置かれたのだが、まずはそれを室内に運んで組み立てなければならない。
えいやっと持ち上げた瞬間だった。腰がグキリと鳴り、生まれてはじめてギックリ腰になった。それきり数日間、動けなくなった。もちろん、トレーニングマシンどころではない。買ったばかりのマシンはそのまま、欲しいという友人に送ってしまった。そのかわり、私は近所のプールに通うことにした。水泳は腰にいい、重力が縦にかからないので無理なく体幹を鍛えられる、という話を聞いたからだ。
幸い、近所に非常に設備の整った、しかも使用料金の安いプールができたばかりだった。それから毎日のようにプールに通い、少しずつ泳ぐ距離も伸ばしていった。
以来、ギックリ腰は二度と経験していない。
そのプールでは赤十字の指導員が来て、水難救助員の講習もあったので、受けた。何日か通わなければならない、かなりハードな講習だったが、受けてよかったと思う。なぜこれを義務教育でやらないのだろう、と思ったりもする。

東京に出てきてからはプール通いはほとんどしてなかったが、近所の中学校に温水プールができて、一定の時間帯を地区住民に開放しはじめた。ありがたいことだ。いまはこれを利用している。一回200円で、回数券を買えばもっと安い。また泳ぐ距離を伸ばしていこうと思っている。